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ボクを盗んで
「な……え、盗むって…どうやって?」
「簡単だよ。ボクの首にある首輪と足枷、手錠を外してここから出して」
「首輪〜?」
ダンボールの中にしゃがんでいる少年の、白髪の腰まである長い髪を払い首元を探る。
すると確かに鉄で出来た分厚い首輪が出てきた。
「お前、これってご主人様の首輪じゃねーの?」
「うん」
「……ふぅん」
文字は読めないが名前が入ってるってことは、きっとこの少年は婦人に拾われて裕福な暮らしをしているはずだ。
なら何故、盗んで欲しいなんて……
「ま、いいならいいけど。触るよ?」
少年が擽ったそうな声を出すが無視して続けた。
「あー、がっちり鍵がかかってら」
「……いい、」
「ん?」
「倉庫にチェンソーがあるんだ。首、切ってもいい……!これを外して、一生のおねがい……」
「………」
白髪の少年はボソボソと言葉を零しながら、『おねがいだ』と真っ直ぐに見上げてくる。
よっぽどこの枷から開放されたいのか、どこか死さえ受け入れるような眼差しだった。
カチャカチャ……ガキンッ
鍵が開いたような鈍い音が鳴る。
「えっ、え?なんで……首輪の鍵はママしか持ってないって…」
「バーカ。出来ないなんて言ってないだろ?鍵なんて無くたって俺様の手にかかればこんなのおもちゃみたいなもんなんだよ」
「おもちゃ……?」
そんな会話をしているうちにも次々に何重もの拘束が解かれていく。
逃げたくて、解放されたくて、でもどうしても外れなくて諦めて、絶望して……
そんな呪いのような枷を針金のたった一本で『おもちゃだ』と笑って外していく、その様子を少年は信じられないと言った顔で見ていた。
「ったくー、『一生のお願い』なんて簡単にするんじゃねぇぞ」
「どうして?」
「どうしてって……そーいうのはなぁ、死ぬ直前に美味しいもの食いたいーっとかそういう事に使え」
「………ふふ、」
「ん?」
小鳥の囀るような笑い声が聞こえ作業を中断し顔をあげる。
するとさっきまで不安そうに怯えていた口元が緩み、弧を描くように歪んでいた。
こうして見るとこんな大きい家の主人に拾われるだけあって、とても整った外見をしていた。
今にもこぼれそうなほど大きな空色の瞳。
心配になるほど白い肌。
一見、女の子に見間違うほど可愛らしい。
「……なんつー顔してんの。言っとくけど、盗むのはこの足枷だけだからね」
「えっ」
「えっじゃない。さすがに子供盗む趣味はねーし」
けれど、それとこれとは別だ。
いくら可愛くったって子供じゃ金にはなんねぇし、着いてきたって養ってやれるとは限らない。
俺一人の現状だって明日は生きれるか分からない。
今を生きるのがやっとだ。
「……そっ、か…」
だから、んな顔すんなって……
無駄だぞ、俺は何も出来ない餓鬼連れ帰るなんて絶対御免だぞ。
「………」
「………」
「……………」
「……………だぁーーーッ!もう、勝手に着いてくればいいだろ」
「っ!いいの?!」
「散々訴えるような目しといてよく言うぜ。言っとくけどなぁ、満足な衣食住は保証しないからな」
「うん、いいよ。おにいさんに着いてく!」
「…………はぁ。仕方ねぇなぁ、街にもっかい寄るか」
本当に分かってるのか、分かっていないのか。
無邪気に返事して後を着いてくる少年にため息をひとつ零して住処である路地裏に帰ることにした。
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