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見惚れてただけ

「いい?これから俺はあのお店からお饅頭を盗んでくる」 街に戻って最初に目に入った店は中華料理店だった。 中で食事も出来るようだが、ドリンク1杯分払えるかどうかの金しかなく 店前のショーケースに陳列された饅頭やら団子を盗むことにしたのだ。 それに、パンのワゴンはもう既に何度も並んでしまってるしおじさんから怪しまれかねないからね。 「盗…?」 「そ。この街じゃそーしないと生きてけないからね」 「いいのそれ…」 少年は拾い食いすらもした事ないようで、ポカンと鼠がネズミ捕りに掛かったような顔をしていた。 「モーマンタイモーマンタイ!とりあえずお前はここでお留守番。出来るな?」 そう言い聞かせると少年は小さく戸惑い気味に頷いた。 「……よし、」 それを合図に俺は中華料理店の方へ出来るだけ気配を消して向かった。 予定より一つ多めの3つ黒い塊が入った紙袋から一つ掴み、残りを少年に差し出す。 小さい両腕で大事そうに抱えたその顔は未だに驚いた顔をしていて呆れて思わず溜息をこぼした。 「そんなに泥棒が物珍しいか…?ほら、それお昼だ。夜までまだ長いししっかり食べときな」 泥棒してるガキなんてここらじゃ結構どこにでもいるし、 そういう奴らの家…溜まり場だって探せばそこら中にあるんだけど。 そんな汚い事の一つも知りません〜みたいな顔見ると、やっぱりそういう人種が居ることすら知らなかったのか。 本当は昼飯だけ食べさせたら比較的安全な区域の路地裏にでも置いていこうか、とか考えてたけど そんな無知な少年をハイエナの群れの中のようなとこに置いていけるほど薄情になりきれなかった。 とはいえ、養うつったってどうすりゃいいんだ……? 育児なんていの字も知らないぞ。 そんなことを思っていると白髪の少年は緊張していた表情を少しだけ緩め、嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとう」 「おー。言っとくけど、少ないだとか足りないだとか文句は聞かないからね」 「……とっても美味しい!」 「ん。良かったな」 「うん。お兄さんも」 と言って立ち止まると紙袋を少し傾けてきた。 正直結構驚いた。 ありがとうと素直に言われるのも、誰かから食べ物を分けて貰うことも。 全部初めてのことだったから。 「…それは、お前に盗ってきたものだ、お前が食いな」 「……?」 「いや、いらないなら別に…」 「ふふ、はんぶん、こ。」 「え? 」 自分の取り分が減るのに何が可笑しいのかニコニコと微笑んで歪に割られた黒い饅頭を差し出してくる。 それを受け取る時小さな薬指が掌に触れた。 少し温かいな、なんて思ったりした。 子供体温はなぜか安心する。 「美味しいね」 「あぁ、美味い。あそこの店は胡麻団子も美味いんだ……気になる?」 「うん!」 「ふぅん……よし、じゃあ今度盗りに行くか!」 期待に満ちた表情で頷いていた少年は一瞬、 考え込むような顔をしてからそのまま曖昧に首を縦に振った。 「ふは、分かりやすい奴」 「??」 「誰がお前みたいな少年に盗みに行かせるかよって。安心しな、食べ物は全部俺が盗んであげるからさ」

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