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第1話

金曜日の放課後。 毎週の事とは言え明日からの2連休を前に、学校全体が浮き足立っている気がする。 「せんせー、さようなら!」 「あぁ、気をつけて帰れよ!」 俺の横を通り過ぎていく生徒が挨拶をしていく。友達同士で肩を組み、ゲラゲラと笑いながら廊下を歩いていく姿を見ていると、ほんの少し前までは俺もああやっていたんだよなと懐かしい気持ちになる。 「懐かしくとか、感じてる時点でもうおじさんか…」 世の中のおじさん年齢がいくつからなのかは知らないが、こうやって毎年毎年ピッチピッチの肌に張り艶ある奴らが入学してきて、その青い時代を謳歌していく場所で教師なんて職業をしていると、20代後半にはおじさんレッテルを貼られてしまうと言うか、自覚してしまう。 腕に抱えた数冊の分厚い資料の重さがずしっと腰にきた。 「重いなぁ…腰、気を付けないとな。」 帰宅部の生徒達の帰りの波が一段落ついたようで、先ほどまでの喧騒が嘘のようにいつの間にか廊下が静かになっていた。 「俺もさっさとこいつら返して、仕事に戻るか…」 止まっていた足を再び動かそうとした時、後ろからセンセー!と呼ばれて振り返った。 「あぁ、お前らか。」 俺の教えてる生徒の一人とその後輩の一人ーこちらは双子だったはずーが、重そうだねぇと声をかけてきた。 「暇なら手伝え!」 「いや、俺達も忙しいんだよ!これから教室に行って、鞄を持って、下駄箱で靴を…」 そこまで聞いて、二人に向かって資料を突きつける。 「暇だって事だろ?オラ、さっさと持ってついて来い!」 二人に資料を持たせて、身軽になった俺がまるでガキ大将のように前を歩く。 「はぁ。しかたないな。暇ではないけど付き合うよ。それで、どこまで行くんだよ?」 「ん?資料室だよ」 「それってこの廊下の突き当たりの部屋だろ?だったら、一人ででも大丈夫だろ?」 そう言って、半分を持たされている後輩になあ?と同調を求めた。 「でも、確かに重いし…一人では辛いかも…」 求められても、俺をあまりよくは知らない一年じゃ、先生をディスる事は出来ないので、思いがけない応援者となった。 「ほらな!お前、いい奴だな!」 そう言って、髪をくしゃっと撫でる。 「あ、ありがとうございます…」 少し顔を赤くして俯き加減に礼を言う姿に、可愛いなと口走りそうになり焦って、さっさと行こうか!と、大声を出しながら早歩きになった。 二人から少し離れ気味のままで部屋の前に着くと、持ってきた鍵でガチャと扉を開き、二人が来るのを待って部屋に招き入れる。 「どこに置くんだよ?」 資料室の中はそこそこの広さに本棚が並び、その場で読めるようにと、長テーブルとパイプ椅子が数脚置いてある。例えるならミニ図書室と言った感じだ。 「本を戻したいから、もう少し持っててくれ…って、おかしいな?」 「どうしたんだよ?」 「いつもはここにある脚立がない…どこに行ったんだ?」 「なら、そのパイプ椅子を代わりにすれば?って、せんせーじゃ無理か。 おい、すぐる…お前できるか?」 「いいですよ。これ、お願いします。」 そう言われてすぐるから資料を受け取った。 手近にある椅子を一脚持つと、あたりを見回しながら、どこですか?と聞かれた。 まずはと一番扉に近い本棚を肘で指す。 「はい」と言って、椅子を置くと靴を脱いで上がる。 「櫂先輩、下さい。」 そう言って、すぐるが椅子の上から手を伸ばすと、バランスを崩したのかガタっと椅子が傾きそうになった。 「おい、支えた方が良くないか?」 「気をつけるんで…あっ!?」 言ってる間に、すぐるが椅子から崩れ落ちた。 「いってー!」 「だいじょうぶか?!」 資料を床に置いて、すぐるのもとに駆け寄る。 「大丈夫で…いたっ!」 「俺におぶされ。櫂はここにいてくれるか?」 「自分で歩けるから大丈夫ですって!ちょっと待ってください。」 そう言うとすぐるがスマホを取り出して、何やらメッセージを送っているようだった。 「しょうに連絡したんで、俺は廊下で待ってます。櫂先輩、先に帰りますけど…」 「あぁ、別にいいよ。じゃあ、来週な…」 すぐるが廊下に出るのを肩を貸して手伝う。 ちょうど扉を開けると、そこにすぐると同じ顔だが、少し小柄の学生が立っていた。 「すぐる、大丈夫?」 「うん。先生、ありがとうございます。でも、もう痛くないしこのまま帰ります。俺、一応受け身取れるんで…じゃあ、さようなら!」 そう言って二人はケラケラと笑いながら廊下を去っていった。 「まあ、大丈夫ならいいか。」 釈然としないものを感じたままで、俺は櫂の待っている部屋に戻った。

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