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SMルーム

 駅前のロータリーの一般車送迎スペースに車を停め、運転席のシートに背を預けてスマホの電源を入れた。19時36分、彼が駅に着く時間の6分前。新着はなし。連絡がないということは、当初の予定通りこちらに向かっているのだろう。  ラジオを聞き流しながらぼんやりと駅に出入りする人の動きを眺める。ブブッとスマホが振動し、彼からの『着いた』と、ただそれだけのメッセージが液晶に表示された。  再び駅の出入り口に目を向ける。彼と同じ電車に乗っていたであろう人々が一斉に駅から出てきた。その中のひとりがキョロキョロしながらこちらに近づいてくる。無愛想で金髪の、リュックを背負った若い男。車の中から小さく手を振るとようやくこちらに気付いた。早足で歩み寄って来て助手席のドアを開ける。 「お疲れ。荷物後ろ置きな」  リュックを抱えて乗り込もうとする彼に声を掛けると、その通りに一旦ドアを閉め後部座席のドアを開けた。ノートPCやら参考書やら、大学で使う教材が入った重そうなリュックを下ろした彼が改めて助手席に乗り込んでくる。 「荷物多いね」  シートベルトを締めながら彼が元々積んであった後部座席のボストンバッグを見て言う。 「たった一泊だけだけど一応お泊まりだからね。サクラくんのパジャマも持ってきたよ」 「ありがとう」 「夕飯は何にする?」  方向指示器を点灯させてから車を発進し、駐車待ちしている車の為にスペースを空ける。 「何でもいい。この辺何がある?」 「意外と何でもあるよ。居酒屋、マック、牛丼、ラーメン、ファミレス。コンビニで買って行ってもいいし、ホテルに着いてからルームサービス頼んでもいいし」 「じゃあラーメンで」  無愛想な返答にはいはい、と返事をして通り沿いのラーメン屋へ向かう。個人でやっている小さな店で、大体いつ行っても何人かが外で列を作っているが今日はたまたま列がなくすんなり店内に入れた。  テーブル席に案内され、A4の紙に出力され百均のケースに入った手作りのメニューをふたりで眺める。 「俺は醤油と餃子にしようかな。サクラくんは?」 「とんこつ」 「炒飯とか餃子は付けなくていい?」 「ん」  ちょうどお冷やを持ってきてくれた店員にすみません、と声を掛ける。アルバイトだろうか、彼と同い年くらいの女性店員は注文を伝票に書き付けると目も合わさずに少々お待ちくださいと言い残して急ぎ足で立ち去った。  客席は満杯、注文をとってくれた彼女は厨房に注文を伝えるとすぐにホールに戻ってきて空いた席の後片付けをしていた。忙しいのは分かるが、もう少し愛想良くしてくれてもいいのではなかろうか。  向かい合わせでスマホを弄る彼に目を向ける。今の若い子は愛想がない子が多いのだろうか。俺の視線に気付いて彼が顔を上げた。 「バ先からシフト増やせないかって相談来てて」  愛想はないが、聞いてもいないのに教えてくれるあたりいい子だと思う。バサキ、と復唱すると、バイト先、と彼が丁寧に言い直した。知ってる、と言うと彼が露骨に嫌そうな顔をし、それを見て小さく笑った。 「で、シフト増やすの?」 「無理。これから研修も入ってくるし」 「そっか。じゃあこの先あんまり会えなくなるのか」  彼は21歳の医大生で俺は28歳の社会人。彼とは付き合い始めて1年以上経つが、年齢も立場も生活習慣も趣味も考え方も異なる彼とどうして付き合っているんだろうと未だに不思議に思うことがある。  彼とは出会い系サイトを通じて知り合った。サクラというハンドルネームだったのでてっきり女だと思い込み、実際会ってみたら男だった。彼の名は咲良亮といい、名字からこの紛らわしいハンドルネームを付けたようだ。  俺も彼も、元々はヘテロのはずだった。きっかけとなった出会い系サイトはSM専用のもので、彼が言うにはただ縛ってほしいだけで身体の関係は求めないので男相手の方が都合が良かったのだという。あまりにも危なっかしい動機で、最初に会ったのが俺で良かったと心底思う。  最初は彼の望み通りただ拘束して解くだけのお遊びだったが、付き合い始めて以降肉体関係に発展した。今日も腹ごしらえをした後ホテルに向かうことになっている。  お待たせしました、とテーブルにラーメンと餃子がドンと置かれる。 「餃子一個食べる?」 「ありがとう」  彼の口数が少ないのは単に緊張しているからだ。俺の皿から餃子を持って行って黙々と咀嚼しているだけで可愛いと思うくらいには彼に嵌まっている。目つきの悪い男を可愛いと思う日が来るなんて思わなかった。  食事を済ませて途中でコンビニに寄り、やってきたのは街の外れにあるラブホテル。一見普通のビジネスホテルのような佇まいだがSMルームが5部屋ある。そのうちの1部屋を予約しておいた。 「うわー……」  部屋に入るなり彼がげんなりした声を上げる。こじんまりした部屋の大半をベッドが占める、一見普通のラブホテルと変わらない室内において、真っ赤に塗られたX字の拘束台がやたらと目を引く。  荷物を部屋の隅にまとめて置くと、準備してくると言って彼がすぐにトイレに籠もった。その間にRPGの勇者さながら部屋中を家捜しする。アメニティが充実しており、ベッドボードには当然コンドームが備えられている。部屋の隅に追いやられたテーブルの上にはルームサービスのメニューとホテルのポイントカード、そして新品のショーツが置いてあった。  自宅から持ってきた道具を用意し、ビデオカメラの準備をする。  しばらくして水を流す音と共に彼がトイレから出てくる。脱衣所がないのでその場でさっさと服を脱いで裸になると、バスルームのドアに手を掛けた。 「ごめん、お風呂入れてない」 「え」  彼はいつもする前に風呂に入る。それが分かっているのでいつも事前に準備しており今日もそのつもりだったのだが、バスルームを見て気が変わった。彼が嫌悪を顕わにする。 「早速で悪いんだけど、首輪を付けさせてくれないかな。俺に身体を洗わせてほしい」  突然の申し出に彼が困惑した表情を浮かべる。当然彼には拒否権があるので嫌だと言われればそれまでだ。  彼が渋々といったように俺の元へやってきて、テーブルの上から首輪を取って俺に差し出す。 「お願いします」  彼が受け入れてくれたことでゾクッと身体が昂るのを感じた。何てことない顔をして首輪を受け取り、俺の前に膝を折った彼の首に巻き付ける。首輪を付ける行為は、俺達の間でプレイ開始の合図だ。それは必ず彼の意思で始められるもので、俺が一方的に首輪を付けることはしない。  SMプレイは互いの信頼があって成り立つものだ。合意の元で身体を拘束したり、痛めつけたりする。そこに信頼関係がなければただの暴力と変わらない。信頼を得るには相手が本気で嫌がることはしないこと、ルールを守ること。それを積み重ねていくことでしかないと思っている。  プレイは彼の意思で始める。首輪を付けている間は絶対服従。これらは何度かプレイするうちに自然と定まった決まり事で、元々ルールはひとつだった。受け入れがたい要求に対してはセーフワードを使って意思表示をすること。そしてセーフワードが使われたらプレイを中断すること。  だが意地を張っているのか本当に継続しても大丈夫なのか、彼はセーフワードを口にしない。その点においては彼のことを信頼していないので慎重に見極める必要がある。  黒い革の手錠を彼の手首に巻き付けて後ろ手に拘束し、目隠しを施した。首輪にリードを繋ぎ、軽く引っ張ってその場に立たせる。そのままリードを引っ張ってきてバスルームに入り、彼を洗い場の風呂椅子に座らせた。リードは壁から張り出した、タオルなどを掛けておくための棒に軽くたわむように縛っておいた。  尻ポケットからスマホを取り出しインカメに設定して録画を開始する。音に反応して彼が撮った? と聞く。うん、と答えながら画面をこちら側に向けた状態でスマホを正面の鏡の下に置いた。  彼の肩越しにシャワーを取り空の浴槽に向けて湯を出すと、音に反応してビクッと彼の肩が跳ねた。これほどまで驚かれるとは思っていなかったが、彼には俺が何をしようとしているのか分からないのだから当然の反応かもしれない。手で湯の温度を確かめてから彼の足元を濡らした。 「温度どう?」 「大丈夫」 「じゃあ身体を濡らしていくね」  ガチガチに緊張した身体にぬるめのシャワーを掛けて全身を濡らす。湯を出したままシャワーを元に位置に戻し、花の絵が描かれたパッケージのポンプを2回押してフローラルな匂いのするボディソープを手のひらに出した。それを両手に塗り広げ、丸まった彼の背中に触れる。ビクッと彼の両肩が上下した。 「普通に身体洗うだけだから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」 「だったら目隠しと手錠はおかしいだろ」 「だって、その方が楽しいでしょ?」  強がる彼に微笑みかけて、スルッと両手を腋の下に滑らせる。彼がビクンと身体を強張らせ腋を締める。後ろから乳首をつまみ、耳の裏に唇を押し当ててちゅっと音を立てた。 「や……」  彼が前屈みになり、上体をくねらせて俺の手から逃れようとする。頭を下げるとリードが引っ張られて首が絞まる。彼が暴れるとリードもそれに合わせて大きく揺れた。背後から彼に覆い被さり、乳首を捏ね、胸、腹と撫で回すようにボディソープを塗りつけていく。  陰毛を泡立てた後、あえて中心には触らずにそけい部を撫でた。彼が手の動きを封じるようにぎゅっと足を閉じて両手が太腿に挟まれる。泡のぬめりでいとも簡単に抜け出して太腿を撫で回す。 「足開いてきてるの、分かる?」  目の前の鏡には中心を勃たせて足を開くはしたない姿が映っている。すぐに彼は足を閉じたがもう遅い。鏡の下に置いたスマホにバッチリと録画されている。  上向いている性器を握る。期待していたそこは鈴口から透明な蜜を垂らしぬるぬるしていた。 「ひっ、あ、あ」  泡の付いた手でぐちゅぐちゅと竿を扱くと、彼が上体を反らせて喘いだ。閉じたばかりの足が徐々に開いていく。  皮を剥き敏感な所を露出させる。そこを丁寧に洗ってやると、つま先立ちになり腰を浮かせた。 「やッ、いや、そこやだ!!」 「イきそう?」  鈴口を親指の腹で優しく撫でながら聞くと、コクコク彼が頷いた。 「もうちょっと我慢ね」  竿をぎゅっと握って反対の手でパンパンに膨らんだ陰嚢を揉む。うう、と彼が切ない声を漏らした。手の中でドクドクと性器が脈打っている。 「ま、ちださ、もう」  息も絶え絶えに彼が苦しげに訴える。 「イきたい?」  彼の発言を引き取ると、コクンと大きく頷いた。 「じゃあ、いいよ」  絞り出すように性器を扱いてやる。そこからは早かった。 「あ、ああ」  彼がビクビクと身体を痙攣させながら床に白くてねっとりした精子をぶちまけた。シャワーから出続けている湯に流されて排水溝へ流れていく。 「お疲れ様。身体流すね」  目隠しを外してやると鏡越しにホッとした彼の表情が見えた。うっすらと涙を浮かべ、ぼんやりした目をしている。  スマホの録画を終了し、尻ポケットに戻す。シャワーで全身の泡を落とし、白いバスタオルを持ってきて彼の身体を包む。その間彼はずっと無言で放心しているようだった。 「ちょっと広いね」  空のバスタブを向いて彼が言う。ようやく意識が戻ってきたようだ。 「後でゆっくり浸かるといいよ」  答えながら彼の身体を拭いてやる。バスタブはうちと違って足を伸ばせるくらいの広さがあった。ついでに洗い場の面積も広く、だからこそうちでは出来ないことを、身体を洗うと申し出たのだ。  身体を拭き終えると棒に結んでおいたリードを解いた。足元気を付けてねと声を掛けて立たせ、リードを引いてでかいベッドのある部屋に戻ってくる。そこでリードを外し、後ろ手で拘束している手錠と手錠の間の金具を外した。彼が手錠の付いた手首を擦り、首を左右に動かした。 「痛めたりしてない?」 「平気」 「ならいいけど」  仕方ないことだが、黒い革でできたリード、首輪、手錠が水分を含んでしまった。後で手入れをせねばならない。 「さて、これを着てくれるかな」  ベッドに座り、置いてあった透明なビニールに入った服を差し出す。彼が露骨に嫌な顔をする。  白いブラウスと緑を基調としたチェックのスカート、スカートと同じデザインの大きなリボン。袋の中身は女子高校生のコスプレ衣装一式。 「何これ。イメプレでもしたいの?」 「うーん、まあそういうことになるかな。嫌なら着なくてもいいよ。今日のプレイはこれでお終い。首輪外そうか」  両手を伸ばすと、彼が一歩後退る。 「別に嫌とは言ってないだろ」  やけくそで袋を開け、素肌の上からペラペラのブラウスに袖を通し始めた。 「あ、これも穿いて」  家捜ししている時に見つけたノベルティのショーツを渡す。すっかり諦めたようで、はいはい、と返事をして嫌な顔をしながらもあっさりと受け取った。限りなく布地が少ない黒のTバッグで、穿いてみると陰嚢と男性器が収まりきらずにはみ出していた。見てこれヤバイ、と半笑いで彼が言い、つられてフッと笑った。 「後ろどんな感じ?」 「めっちゃ食い込んでくる」 「見せて」  彼がくるりと後ろを向く。黒いレースの布地が白くハリのある双丘に食い込み、なんとも扇情的だ。いいね、と呟いくと彼が急におとなしくなり、文化祭のノリは鳴りを潜めた。  元々コスチュームプレイする予定はなかったのだが、ノベルティのショーツとメニュー表のコスチューム貸し出しを見てすぐにフロントに電話を掛けた。彼がトイレから出てくる前に届けてくれて助かった。  制服を着た彼を拘束台の前に立たせ手足の自由を奪っていく。両手は頭の上辺り、両足は肩幅で台に繋ぐと、二歩分後ろにあるベッドに座って仰視した。 「似合ってる。本当にこんなギャルいそう」  どうも、と平静を装っているが、目が泳いで視線が定まらない。満足に手足が動かない状況下で俺に視姦され、まだ電源は入れていないもののビデオカメラを向けられ、対面の壁の低い位置に貼られた鏡に自分の痴態が映っているはずで、落ち着くわけがない。 「手や足は痛くない?」 「平気」 「痺れてきたらすぐに教えて」  立ち上がると、それだけで彼はビクッとして後退ろうとした。背後にはX字の拘束台があり当然それは敵わない。正面から彼に抱き付き、膝上丈のスカートを捲って尻を鷲掴みにした。 「ちょっと何!?」 「若い子のお尻いいなーって思って」 「何それ、気持ち悪いんだけど」  ねっとりと撫で回し指を食い込ませて揉みしだく。Tバッグを穿いた時からそういう目で見ていた。風呂上がりの身体は温かく、安っぽいフローラルな液体石鹸の匂いがして一瞬女の子を犯しているように錯覚する。当然ながら胸は平らで柔らかさはなく、吐息に混じる喘ぎ声は男の物。食い込んでいるレースを上に引っ張ると、彼が息を詰め、肩幅で足を開いたままつま先立ちになる。上半身が前のめりになり、手錠に動きを阻まれてカシャンと鎖の音が虚しく響く。 「全く抵抗できずに好き勝手されるのって、どんな気分?」 「ちょっと怖いかも」 「でもサクラくんはこういうのが好きなんだもんね」  まあ、と彼が短く肯定する。素直過ぎて言葉責めのし甲斐がない。  アイマスクで目を覆い、ビデオカメラの電源を入れて録画を開始した。スマホを取り出し、着崩れてしまう前に写真を撮っておく。視覚的に興奮するので衣装をレンタルしておいて良かったと思う。  写真や録画は彼の為にしていると言っても過言ではない。出会ったばかりの頃は自衛を目的に合意である証拠を残す為にビデオを回していた。きちんと付き合い始めてからはプレイの一環として利用し、俺としてはすぐに消すつもりだったが、彼はわざわざデータを編集しおかずにしているらしい。写真については、撮られている時は嫌がる素振りをするくせに終わってからは見せてくれとねだってくる。彼は俺を変態と罵るが、そこまで突き抜けていない。  この状況下でいたずらしたくなるのは仕方ない。そもそも自分から拘束されておいて、好きにしてくださいと言われているようなものだ。ガラ空きの腋をツンと突く。 「ン!!」  反射で彼が腋を締めようと腕を下に引くが、鎖が音を立てるだけ。抵抗したいのにできないというシチュエーションにゾクゾクする。だから敢えて彼が嫌がることをする。腋の下をくすぐると、身体をくねらせながら身悶えた。 「やだ、や」  しつこくすると本気で怒るので、怒られる前に手を離す。首に手を添えて唇をキスで塞いだ。首は急所なのでビクンと身体が反応するが、結果は同じ。鎖が音を立てるだけ。たっぷりと舌を絡め唇を離す。キスをしている間、意識的か無意識か、彼はずっと手錠を外そうと手首を動かしたり腕を引っ張ったりモゾモゾ動いていた。  スカートから裾を出し、服の中に手を入れる。両手で締まった腰を撫で、親指で乳首を探して指の腹で撫でる。手のひらに彼の少し早い心臓の鼓動を感じる。 「町田さん、くすぐったい」 「ああ、ごめんごめん」  いちいちビクビク怯えている姿が可哀想で可愛い。 「指しゃぶって」  人差し指と中指で唇に触れると彼が小さく口を開けた。2本揃えて口の中に突っ込む。ぬるぬるした舌の表面を撫で、上顎を触る。口が大きく開いてくると舌の裏に指を入れ、唾液が溢れてきて口の端から垂れた。 「吸って」  ちゅうっと口を窄めて指に吸い付いてきた。温かくて柔らかい口腔を、2本の指がゆっくり行き来する。もういいよ、と言った途端、彼がパッと口を開けた。  彼が舐めて唾液にまみれた指をスカートの中に入れ、布の上から穴に触れる。ビクッと彼が大きく身体を強張らせた。  少しだけ下着を下げ、閉ざされた窄まりに指を突き入れる。 「うッ」  彼が咄嗟につま先立ちになり上に逃げようとした。ぎゅうっと第一関節まで挿った指を締め付け、上体を反らせた。 「大丈夫?」  コクンと彼の頭が縦に揺れる。指は食い締められたまま先へ進まない。一度引き抜き、ローションを使うことにした。  チューブの蓋を開けると、ピクッと彼が反応して顔を上げた。唾液のみだと第一関節までしか挿らなかったが、ローションを塗ると一気に奥まで挿った。少し指を曲げて、ゆっくりと何度もナカを抉る。 「う、んんっ、はぁ、はぁ」  布越しでも彼が余裕のない表情をしているのが分かる。そのうち内股が痙攣し始め、足がガクガクと震え出す。  口を半開きにして涎を垂らす彼の頬にキスをした。指を2本に増やして突き入れると、苦しげな呻き声と共にぎゅっとナカが締まる。  左手でブラウスのボタンを開け、顕わになった胸に舌を這わせ、反対側の乳首を抓る。彼はひっきりなしに喘ぎ、性器はスカートを押し上げ染みを作っていた。  ナカが解れてきたところでピンクのローターを飲み込ませる。キスで気を紛らわせていた彼がピクッと反応する。 「今何挿れた?」  聞かずとも分かっているだろうに。答える代わりにスイッチを入れた。信号が電線を伝い、ナカに挿った楕円形の球体が振動する。う、と呻き声を漏らしビクンと彼の腰が跳ねた。スイッチ部分を中途半端に下ろした下着と足の間に挟み、一歩下がって頭から爪先までをじっくりと観察する。  自力で立っているというよりも、手錠にぶら下がってようやく立っていると言った方が近い。スマホを取り出し、着崩れした姿を先程と同じアングルで写真に収めた。 「さてと。俺はシャワー浴びてこようかな」 「はあ!?」  スマホをベッドに放って言うと、項垂れて歯を食いしばっていた彼が噛み付く勢いで顔を上げた。 「さっき濡れたままで冷えてきた。すぐ戻るから待ってて」 「ちょっと待てよ! このまま行くつもり!?」  声を荒げ、ガチャガチャと音を立てて暴れる姿は動物園の猿のよう。これだけ騒げるなら大丈夫だろうと判断し、濡れた服を脱いでバスルームに入った。  ドアを閉めると声が止んだ。ようやく諦めたようだ。しかしのんびりはしていられない。これまでの経験上、長時間放置すると本気で拗ねることを知っている。長時間同じ姿勢をとらせたままなのも心配だった。最低限泡を落として水浸しのまま出る。  文句のひとつ飛んでくるものと思っていたが、どうも様子がおかしい。手首を回して手錠を外そうと躍起になっているようだったが、静かなものだ。軽く身体を拭いてバスローブを身に着ける。タオルで頭を拭きながら彼の前に立って、ようやくその理由が分かった。 「漏らすほど気持ちよかったんだ」  彼がビクッと身体を強張らせる。一部スカートの色が変わり、彼の足元には水溜まりが出来ていた。性器は相変わらず上向いて染みの起点になっている。 「ち、がう! あんたがそのままシャワー行くから」  彼の反論が珍しく歯切れ悪く要領を得ない。 「あんまり見んな!」  やけくそで叫び彼が顔を背けた。自ら服を脱ぎ、女装させてもケロッとしていて、平気な顔で自分のハメ撮り動画を見る彼が恥じらう姿は珍しい。  電源を切り、ずるっとローターを引き抜く。ん、と彼が鼻から抜ける声を漏らし、身震いした。間髪入れずに熱く熟れたナカに3本の指を飲み込ませる。 「あ、ああ、嫌、ダメ!」  叫ぶ彼の首に手を掛け、強引にキスで口を塞ぐ。ふっ、ふっと彼の荒い鼻息が顔に掛かる。頭上ではガチャガチャと鎖が音を立てていた。上の口も下の口も、熱くて柔らかかった。  目隠しを剥ぎ取ると、涙目になっている彼と目が合った。潤んだ瞳にルームライトの光が反射して綺麗だった。 「うっ、うう……はぁ、はぁ、はぁ」  彼が呻くのに合わせてぎゅうう、とナカが収縮し一気に緩んだ。イったんだろうか。スカートに隠れて見えないが、内股がビクビクと痙攣している。  もう一度彼の唇に触れるだけのキスをした。目がとろんとしていて焦点が合っていない。  その場にしゃがんで片足ずつ足枷を外してやる。中途半端に下ろしてあったTバッグを足首まで下ろし、びしゃびしゃに濡れたスカートを脱がせる。手錠を外してやると、抱き付くようにもたれ掛かってきた。足に力が入らず、何かに縋らないと立てないようだった。  引き摺るようにしてベッドまで運び、仰向けにして寝かせる。彼を跨いでベッドの足から伸びる鎖と手首の手錠をそれぞれ繋いだ。 「冷た」  俺の下で彼が短い声を上げる。濡れた髪から垂れた水が彼の顔に落ちたようだ。 「呑気に頭洗って来たの? ムカつく」  悪態を吐く余力はあるようだ。ベッドの宮、ちょうど手が届くところにホテル備え付けのコンドームが置いてあった。迷わずそれを手に取り、裾を開いてゴムを被せた。 「口開けて」  彼の鼻を摘まむと、素直にぱかっと口を開けた。張り詰めた肉欲をゆっくり挿入する。口の中は温かくて、柔らかい舌や息や歯が当たって少しくすぐったい。彼の頭を両手で掴み、自身の腰は動かさないようにして前後に揺さぶった。先程からずっと我慢していて、自分本位に動いたら制御できそうになかった。 「ん、ん、ん、ふぅ、ふぅ」  胸に体重を掛けられ、首だけを動かされている彼の顔は苦しそうに歪み、ぎゅっと目を閉じた目からは涙が滲んでいた。  先っぽを舐められるくらいの刺激では到底足りず、彼の口から抜いて唾液でテカるそれを正常位で奥まで挿入した。 「あッ……くぅ」  ぐにゃぐにゃになっていた彼が、電気を流されたみたいにビクビクッと痙攣する。内側に向かって手錠を引っ張り、太腿がぎゅっと俺の脇腹を締め付ける。ナカも例外ではなく、強い締め付けに遭い眉根を寄せた。 「はぁ、大丈夫?」  なけなしの理性で一応確認すると、強がっているのか理解できていないのか、コクンと頭が縦に揺れた。嘘でも無理だと言っておけばよかったものを。合意がとれたところで膝裏を掴んで力づくで左右に割り開き、押しつぶすように腰を振る。 「やっ、あっ、ああ゛、んっ、あっ、あ」  肉と肉がぶつかり合う音の中に、彼の叫び声が混じる。どこか遠くで彼の声を聞きながら、腰を浮かせて悶える彼から制服のリボンを毟り取りボタンが開いたブラウスを左右に除けて肌を露出させた。ツンと勃った乳首に舌を這わせ、反対側を指で摘まむと、彼がんん、と甘い声を漏らした。  両手を拘束された彼は俺の思うがままだ。細く骨張った腰を持ち上げると、上半身が引き摺られて両手が鎖に引っ張られる形となった。 「あ、ああ、イク、イク」  彼が腰を浮かせたまま爪先立ちで透明な精液を飛ばすのとほぼ同時に、ゴム越しに彼のナカに濃い精を放った。ずるりと彼のナカから性器を引き抜き、ゴムを外して口を縛ってゴミ箱に捨てる。  涙を滲ませ虚ろな目をしている彼の顎を掴んで右を向かせた。 「今度は鏡見てて」  風呂に入りたいと言った張本人は、俺がちょっと目を離した隙に裸のまま静かに寝息を立てていた。彼に掛け布団を被せた後、使った道具を片付け、床を拭いたり衣装を洗っている間にすぐに湯がいっぱいになる。 「サクラくん、風呂沸いたよ」  揺り起こすと、んん、と不機嫌な呻き声を漏らして目を開けた。元々目つきが悪い彼は、寝起きだとさらに凄みを増す。 「眠いなら朝にすれば?」 「いや、起きる」  目を擦りながら身体を起こし、布団を剥いで床に足を付ける。立ち上がった瞬間、ガクンと身体が傾いた。咄嗟に手が出て裸体を抱き留める。 「大丈夫!?」 「ああ、うん。足に力が入らなかった」  彼も吃驚したようで、俺に抱き付いて目を丸くしていた。腕を掴んだままゆっくり身体が離れる。問題なく自立はできていたが先程の記憶が鮮明でどうも危うく見える。 「町田さんも一緒に入る?」  すでにバスローブから寝間着に着替えて寝る支度を整えていた。だが、もし風呂場で転んで怪我をしたらと考えると申し出を断ることができなかった。  風呂椅子に座って背を丸め、頭を洗いながら彼がでっかく口を開けて欠伸をした。その様子を湯船に浸かりながら眺めていた。 「すげー眠そう」 「誰かさんが無茶させるから」  怒っているわけではなさそうだったのでごめんなさい、と口先だけの謝罪で茶化しておいた。彼の欠伸がうつったのか、ふわ、と小さく欠伸をする。時刻は午前1時に近く、夜更かしの彼と違っていつもならとっくに寝ている時間だ。 「そっち詰めて」  ぼんやりしている間に身体を洗い終えた彼が湯船に入ってくる。洗い場を向いたまま端に寄ると、そうじゃなくてこっち向いて、とダメ出しされる。彼の方に向き直ると、膝を割り開き、こちらに背を向けた彼が間に収まった。彼が身体を沈めた分だけざばあと音を立てて豪快に湯が溢れ排水溝に流れていく。彼がふー、と長く息を吐きながら前髪を掻き上げた。 「手首赤くなってる。痛い?」 「言われてみればちょっと染みるかも」  気付いていなかったのか、手首を擦りながら彼が言う。反対側の手首も同様に一周赤い痕が付いていた。手錠には充分になめした革を使っているが、あれだけ暴れれば傷付いてしまうのは仕方ないのだろうか。 「他に痛いところはない?」 「腰が怠い。あと肩凝った」 「はいはい」  肩に手を置きぐっと指に力を込めるとははは、と彼が笑った。 「何?」 「別に、何も」  彼が何を考えているのか分からないのはいつものことだ。流して肩もみを続ける。若いくせに、ずっと勉強ばかりしているからガチガチに肩が凝っている。すぐに手が痛くなってギブアップすると、もう終わり? と不満を言われた。 「町田さんって優しいよね。セックスの時はどSなのに」 「どMのサクラくんにはお似合いでしょ」  そうきたか、と彼が笑う。 「スイッチが入った町田さんに乱暴されるの、結構好きなんだよね」 「またそうやって煽る」  本当に困った子だ。  セックスをする時は拘束具を使うので余計に自分本位にならないように気を付けているが、本能が理性に勝ち自分の快楽を優先してしまうことがある。それを悪いことだとは思わない。俺と彼は恋人同士で、一方的にサービスを提供しているわけではないからだ。彼には自分本位のセックスをしている瞬間はお見通しのようで、スイッチが入ったと的確な表現をした。 「次に来た時も好きにさせてあげるよ」  さすがに今日は無理だけど、と彼が憎たらしい顔で笑った。

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