15 / 15
第15話
――エピローグ――
どんどん遠ざかる海。きらきらと眩しい太陽の光を反射して、波が燦めいている。そのうち高く茂った木々の向こう側になって、やがて合間にかろうじて覗いていた青い色も見えなくなった。
僕は車窓を眺めるのを止めて、真っ直ぐに座り直す。
「はあー、二泊三日なんてあっという間だったね!」
僕の隣に座っている千明が残念そうに言った。
「そうだね……1週間ぐらいあれば、もっとのんびり出来るかもしれないけど」
「じゃあさ、今度、僕と公彦とみっちゃんと智志の4人で1週間ぐらい、のんびりどっかの海に遊びに行こうよ」
千明は良いアイデアが思い浮かんだぞ、と言わんばかりに楽しそうに口にした。
――智志と一緒に……1週間も旅行?
考えただけでドキドキしてしまう。
ドキドキはするけど、でも、すごく楽しみな気がする。少なくとも今は、以前のように悩まなくても良くなったから。
「せっかくだからさ、お金貯めて沖縄とか島に行ってみたくない?」
「それはいいけど、旅行代高くないかな」
「だから、そこはバイトしてお金貯めるんだってば」
「……千明、また勝手なこと言ってるな? 俺たちは部活あるから、バイト自由に出来ないんだけど」
通路を挟んで隣に座っていた三ツ谷が千明にツッコミを入れる。確かに運動部に入っていたら、バイトなんてしている時間はないだろう。
「んもう、みっちゃんって本当に夢がないよね?」
「どういう意味だよ?」
「今すぐって話じゃないだろ? それに、みっちゃんも智志も鷺ノ宮学園の大学部に進学するんじゃないの? だったら、来年部活引退した後、思う存分バイト出来るじゃん」
「ああ、そういうことか。それなら可能かも……」
「ねえ、公彦も鷺ノ宮の大学部進学組だろ?」
「ああ、うん。そのつもりだけど」
「じゃあ、決まり。来年の夏休みまでに、バイトいっぱいして、お金しっかり貯めて、どっかの島に遊びに行こうよ!」
「いっそのこと、どっかの島でバイトしながら、のんびり1ヶ月ぐらい過ごすっていうのもいいかもしれないぞ?」
「うわぁ、智志! それすっごい良いアイデア!」
――1ヶ月間、智志と24時間ずっと一緒? それこそ夢みたい……
想像したら、ますますドキドキが止まらなくなってきた。
「真夏の島でアバンチュールだよ! ロマンティックー!」
「千明……お前、アバンチュールって意味知って言ってんのか?」
三ツ谷は呆れた表情で千明を小突いた。
「痛いなあ! なんだよ、みっちゃん。バカにすんなよ! 恋の冒険って意味だろ? もしかして、ひと夏の経験しちゃうかもねえ~」
「ばっ、バカ! 千明なに言ってるんだよ、お前……」
三ツ谷は真っ赤になって慌てふためくと黙り込んでしまった。
「もう、これだから童貞は困るよね」
千明は黙り込んだ三ツ谷をちらっと見た後、僕の耳元で囁いた。
「えっ? 千明……経験あるの?」
「公彦ってば、なに言ってんの? あるわけないだろ」
千明はどこか不満そうにそう答えると「ねえ、お菓子残ってない?」と立ち上がって、後ろの席の1年生コンビに話しかけた。
「あ、先輩。ポテトチップスなら1袋残ってますよ」
「それでいい、ちょうだい」
座席に戻って、一人でポリポリとポテトチップスを食べる千明を眺めながら、僕は智志と二人、真夏の海辺で過ごしているところを想像していた。
真っ青な空と海と白い雲と、そして真っ黒に日焼けした智志。眩しい太陽に照らされた智志の明るい笑顔が僕に向けられる。その後ろではずっと優しい波の音が続いていて。
――そんな夏休み、過ごせたら最高。
僕の胸は期待に高鳴る。
――智志も、僕と同じ気持ちでいてくれたらいいな。
たとえ、その日がすぐには来なかったとしても、でも今の僕にはいつかその日が来るだろう、って信じられるから、だから大丈夫。
抱き締められた時に触れた彼の肌の熱さを思い出して、僕はそう思っていた。
ともだちにシェアしよう!