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悪魔の華嫁

「黒耀っ!!」 僕は家に着いてドアを開け放つとすぐに見つけた黒耀に、走ってきた勢いそのまま飛び付いた。 茎は一度動き出すとその侵食は早く、既に肘の辺りまで伸び腕を締めつけている。 「真白?...その腕はどうした」 僕が抱き付く前に左腕の様子に気がついたのか驚いた表情で黒耀は僕を抱き止める。 黒耀は村人を避けて生活して来たため、僕の指に付いている花のことは知っているものの、それが何を意味するのか、そして今起こっている花の暴走についても無知である。 「華持ち」の事情を話せばきっと黒耀は自分と婚姻を結ぼうとするだろう。 --再び僕の命を救うために。 黒耀からは今まで沢山の情を与えられてきた。 本当はそれだけで満足すべきなのだろう。 でも、僕は黒耀からただの情ではなく愛情が欲しいのだ。 --僕が黒耀に抱いているものと同じ愛情を。 だから僕は例え死んでしまったとしても事情を話さない。 ただの情しか僕に抱いていないのならこれ以上黒耀を僕という鎖で縛り付けたくないのである。 --でも、結果はもう見えている。 黒耀はきっと僕を家族以上にはみていない。 だから僕は少しでも長くこの黒耀の、冷たいけど優しい腕に抱かれて最後の一時を過ごしたいのだ。 「腕?別に何ともな...っ...!」 見え透いた嘘でも何でも付くしかないと思っていたが、話し始めた途端に棘が更に深く腕に突き刺さり、あまりの痛みに悶絶してしまう。 更には痛みで意識まで飛びそうだ。 今意識が飛んでしまったらもう2度と大好きな黒耀が見れなくなってしまうかも知れない。 もう2度と愛している黒耀に話しかけれなくなってしまうかも知れない。 そう思うと絶対に言うまいと思っていた言葉が無意識のうちに口をついて出ていた。 「黒耀、黒耀っ.....大好き.....」 「真白っ!こんな時に何を言って...」 黒耀が僕の名前を呼んでいる気がする。 黒耀が僕の顔をみている気がする。 だけどその内僕の目の前は真っ暗になり、何も感じられなくなってしまった。 翌朝。 真白を診てくれる者を一晩中探していた黒耀が家へと戻ってきた。 腕に抱えていた真白を静かにベッドへと降ろす。 「真白、聞こえているか?誕生日おめでとう。.....お前が20歳になる日に言おうと思っていたことがある。.....真白、俺と結婚してくれ。俺もお前を愛している。お前を助けたその時から俺の心はずっとお前に捕らわれたままなんだ.....。」 横たわる真白の手を取り黒耀はそっとユリの花に口付けた。 それが何を意味するかも知らずに。 それでもユリの花は結晶と化し、真白の指で輝きを放った。 20歳を迎えたその日、真白は愛する悪魔の「華嫁」となった。 ただ、真白のその胸を、刺々しい茎が一本深く、とても深く貫いていたのだった。

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