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第1話

 早朝四時半。小鳥遊礼央(たかなしれお)はホストクラブ「K」の店長としての仕事を終え、自宅の玄関を開けた。  リビングの方からぱたぱたと走る音が聞こえてきてげんなりする。   「おかえりなさい、礼央さん」 「いちいち出迎えなくていいって」 「俺がやりたくてやってるんです。お気になさらず」    アホかこいつ。やめろって言ってんだよ。説明するのもめんどくせえ。   「ご飯にします? お風呂にします? それとも俺にします?」 「そのテンションまじだるいから。飯」 「はーい。今日は野菜がたっぷり入ったたまご雑炊ですよ」    礼央の鞄を持ちながらあとをついてくる(なぎさ)は、こんな昭和の親父みたいな態度をとられても鼻歌を歌いそうなぐらい上機嫌だ。 「俺、アフターで飯食ってきたんで礼央さんどうぞ」 「そ。てかアフターぐらい遅くまで付き合ってやれよ」 「嫌ですよ、礼央さんとの時間が減っちゃうじゃないですか。最初に一時間ぐらいしか付き合えないよって言ってあるし」 「よくそれで客が我慢してるよ」 「えー、礼央さん嫉妬ですか? 嬉しいです」    はい疲れた。日常会話すらままならないのに、こいつがナンバーワンだなんて聞いて呆れる。  礼央の帰りを待ち、飯も風呂も甲斐甲斐しく準備をする一条(いちじょう)渚という男は、ホストクラブ「K」のナンバーワンホストだ。  渚は、礼央の部屋にもうずっと前から居候している。   「ごちそうさま」 「どういたしまして、お風呂も沸いてますよ」 「入る」  流しに食器を置いて、風呂場へ向かった。  赤の他人の渚を居候させる対価に、家事は全部渚がやれと言ってある。  そもそも渚は金に困ってない。金を入れろならまだしも、そんな面倒な要求、断られると思っていた。  こいつがすんなり受け入れたとき、もって一ヶ月くらいだろうなと思っていた礼央の予想を軽々と越え、ロボット掃除機が増え、食洗機がキッチンに置かれ、縦型洗濯機が乾燥機がついたドラム式洗濯機に変わり、もう五年も、渚はこの部屋に住み着いている。  いや、その金で引越せよと何回言ったかわからない。その度に渚は「嫌です」とはっきり答えた。  最後に聞いたとき、その答えに何故か安堵した自分がいて、それから言うことはなくなったけど。  なんでオレが渚がいることで安心しなくちゃいけねーんだよ。

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