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第2話
この部屋に渚が転がり込むきっかけになったのが、礼央の働いていたホストクラブが潰れたことだった。
オーナーがケツモチのヤクザにちゃんと金を払っていなかったらしく、営業中に柄の悪いヤクザが何人かご来店してきた。
その中に、昔ヤンチャしてたときの知り合い、桐藤巧 がいて礼央だけは場違いにも笑った。
なんとかお客様を避難させ、荒れる店内とボコられるオーナーを尻目にVIPルームで煙草をふかす。
めんどくせえな、新しい店探すの。
当時礼央は二十七歳で、新しい店に入って一からやり直すのには相当気力がいる。
この世界の肩書きや役職なんて、その店でしか通用しない。
違う店にいけば年のいった新人扱いだ。だる。
VIPルームの扉が開き、桐藤が入ってくる。
ホストになる前の礼央は所謂半グレで、ヤンチャしていた時にヤクザのシマを荒らしてしまったらしく、桐藤やほかの仲間と共にブチギレたヤクザたちにボコられた。
それから礼央は夜の世界へ、桐藤はヤクザに心酔するようになり普通に距離を置いた。ドMかよ、奇人すぎる。
その時から会ってなかったけど、久しぶりに見た桐藤はちっとも変わっていなかった。
「小鳥遊 、今ホストやってるんだね」
「本名で呼ぶなよ。今おまえのおかげで失業したところなんだけど」
「うん、そんなおまえに職業斡旋。店長やれ」
「は?」
話が見えない。店長? なんのだよ。
「いや、ホストクラブ経営しようかなって思ってるんだよね。小鳥遊、そこで店長やれよ」
「オレ、これでもここのナンバーワンだったんだけど。キャストじゃねぇのかよ」
この店に移籍してからずっとナンバーワンを維持してきたオレに、内勤を勧めるやつなんて桐藤しかいないだろう。
「キャストにしても、もうこれ以上売り上げ伸びねえだろ。知らないけど」
「余計なお世話だボケ」
桐藤の言うことは悔しけど当たっていた。
仕事に対する熱意が下がっている。
礼央がナンバーワンで当たり前みたいな雰囲気は、やる気が出ない。締め日のナンバー発表の時、ドキドキしながら聞く気持ちが思い出せない。
こんなモチベーションじゃ長く続かないなんて、礼央自身が一番わかっていた。
他店にいくのも勇気がいる。だけど就職もせず夜の世界に飛び込んだ礼央は、夜の世界から出るのも不安だ。
「別にいいだろ、働くとこないんだし」
「おまえが言うの?」
まあ、確かにもう働くとこないし、キャストとして働くのも疲れてきたし、昼職も厳しいし、内勤として働くのもわるくない。
ナンバーワンのままやめる潔さも時には大事だ。
「まあいいけど。給料はずめよ」
「その話ちょっと待った!」
VIPルームの扉が音を立てて開かれる。そこにはこの店のナンバーツー、渚が立っていた。
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