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第1話
キラキラ、輝いて見えた。
丸くなった水が跳ねていく。空中に蹴り出され、掻き出される度に、水が照明できらめく。
おれは、プールから上がってきた小焼に、タオルとドリンクを渡す。
「お疲れ、小焼」
「タイムは?」
「3回目よりかは、あがってる。基準タイムより速いから、良い仕上がりじゃねぇかな。もう1本泳ぐなら5分休んでいけよ」
「もう今日はあがります」
「ん。そっか」
「……明日、休みですから」
そう言いながらタオルとドリンクをおれに押し付け、小焼はクールダウンに向かった。
ゆっくり泳いでる姿もやっぱり綺麗だ。いつでもキラキラ輝いて見える。
「あー! もう、大好きー!」と喉まで出かけた言葉を飲み込む。このプールには、おれ達以外にも人がいる。
水泳部の全体練習に、小焼がきちんと参加し始めたのは、あの騒動があって5日後だった。
騒動の顛末は意外とあっけなく、おれと小焼の関係についても、おれの想像よりも世間に受け入れられた。
おまけに、応援したいって人も多く出てきたし、海外スポーツブランドからスポンサー契約の話まで来たぐらいだ。小焼は断ってたけど。
普段は「ひとりが良い」と言うのに、「水泳部の練習に参加したい」と言い出した時は大雨が降るかと思った。実際には、季節外れの雹が降ってきた。
で、今現在、他の部員と同じプールで同じ練習メニューを終わらせて、おれの考えたメニューも終わったところだ。
「伊織くーん!」
「おう望月。調子良さそうだな?」
「うん! 夕顔くんがフォーム見てくれてから、タイムあがったんだ! 次の記録会が楽しみ!」
「そっか。良かったな!」
水泳部の中でもなかなか遅い望月だが、小焼がフォーム指導をしてからタイムがのびてきていた。大会の標準タイムにはまだまだだけど、これからもっとあがっていけそうだ。
クールダウンの終わった小焼は、望月に「お疲れ様です」と言って、おれの横を通り過ぎていく。置いていかれた。いつものことだけど。
「他の人にも挨拶してから帰ったらどうだ?」
「嫌です。面倒臭い」
「あのなぁ、せっかくこうやって全体練習に出るようになったんだから、他のやつとも交流しろよ。おまえと話したいやつけっこういるんだぞ」
「……」
「何か言ってくれよ!」
これもいつものことだから慣れたもんだ。
やっぱり、他人と関わるのはまだ難しいかな。敵ばかり作っちまうのも困るから、必要以上に話さなくて良いけど、挨拶以外話さないのもどうかと思う。……今は許されてるけど、そのうちまた悪い空気になりそうだ。
小焼はシャワーを浴びに行くようだから、おれはタバコでも吸いに行こうかなぁと回れ右したところで後ろ首を掴まれ、そのままシャワールームの個室に引きずり込まれた。
壁に押さえつけられて、噛み付くように口付けられた。深く口付けられて、舌を絡め取られ、頭がぼーっとする。
おれの手がボタンに当たったらしい。シャワーヘッドから勢いよくぬるま湯が飛び出てきた。やっと唇が離れた。
「ん、ンッ、ぁ、小焼ぇ、な、に?」
「セックスしたい」
「ここで?」
「ばかか」
「ひっ、乳首抓るなってぇ!」
服ごしに乳首を抓られて、痺れてきた。
小焼の脚がおれの股間をぐりぐり押さえつけてくるから、体の中心が熱をもってくるのがわかる。服がずぶ濡れになってんのに、あつい。何回もキスして、とろけてきた。もう下着も水なんだか精液なんだかわからないくらいにどろどろだ。
腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。
「……夏樹、『ハウス』」
「ん。わかったよ。先におまえん家行きゃ良いんだな」
ぽいっと、放り出される。
おれ、着替え持ってねぇのになぁ……。初夏と言っても夜は冷える。ずぶ濡れのまま車乗らなきゃいけねぇの……つらい。
でも、久しぶりにヤれるのが嬉しい。期待と興奮で滾ってきた。早く小焼ん家に行こう。先に帰って夕飯準備してやるんだ! おれは料理が苦手だから、小焼の作り置きをレンジでチンするだけだけど!
幸いにも誰にも会わずに車に乗れた。順調に小焼ん家に着いた。カギを開けて、家に入る。玄関にはお散歩用のリードと首輪が並べられていた。犬用だけど、おれ用のだ。川で大活躍したものだけど、何で犬もいないのに小焼が持っていたか、誰も疑問に思わなくて助かった。正直、同性愛だかよりも、早朝お散歩のほうが報道されたら困る。
玄関で着ているものを全部脱いで、洗濯機に入れといた。ずぶ濡れのまま家ん中歩き回ったら怒るだろうから、きっとこれが正解だ。
風呂はわかさなくて良いかな。体が冷えてるから、先にシャワー浴びとこっと! キレイキレイしとかないとなぁ。この後、小焼とイチャイチャするんだ、イチャイチャ。あ、やばい。
「勃った……」
洗いづれぇ。触るだけで腰が痺れてくる。きもちい。小焼が帰ってくるまでまだあっかな。1回ヌいとこ……。ヤる時は3回までって、小焼に言われたから。
「はっ、あ……、小焼ぇ……、ンッぁ……ぁ……」
一気に上り詰める。白濁が床に散る。まだシたい。1回イッたらおさまるかと思ったけど、抑えらんない。まだシたい。
排水口におれの精液が吸い込まれていく。あのまま魚が受精とかしねぇかな……。下水道に魚はいねぇか。いたらどうしよう。おれの知らないところでおれの子ができねぇか? できねぇな!
「夏樹。シャワー浴びてるんですか?」
「おっ、おう。おかえり! ごめんまだメシの準備してない!」
「お前がしたら大惨事になるから良いです。この前もイカをレンジで爆発させたろ」
「い、いやぁ、あれについては事故だからさぁ。あはは」
「はあ……。服置いときますから」
「あーい! ありがとー!」
あっぶねぇ。自慰してたのバレてねぇよな? きちんと床掃除しとこ。
浴室を出る。バスタオルと着替えが置かれていた。ロンTだ。おれが着るとワンピースのようになる。下着は貸してくれないから、ノーパンだ。
キッチンのコンロの前に小焼はいた。後ろから腰に抱きつく。
「危ないからやめてください」
「ん。わりぃ。何作ってんだ?」
「オムライス」
「やったー! ふわふわ玉子のやつだ! 小焼の作るオムライス美味いから好きだ!」
「オムライスだけですか?」
「小焼も好きだ!」
「はいはい」
あきれたような声がする。少しだけ唇に傾斜を描いてた。笑ってくれてる。嬉しい。
小焼はケチャップでハートを書いてくれた。なんだか歪だけど、愛を感じるから良いんだ。おれも小焼の分のオムライスにハートを書いてやった。なかなか綺麗にできた。ふゆの漫画の手伝いで、ひたすらハートを書いた経験値の賜物だな!
2人で手を合わせて、「いただきます」をした。
おれの書いたハートは一瞬にしてスプーンで伸ばされ、消え去った。そうなるとはわかっていたけど、少し悲しい。
ふわふわの玉子に、甘酸っぱいケチャップライス。具材にチョリソーを入れてくれたから、ピリ辛で刺激的だ。
「ごちそうさま! 美味しかった!」
「おそまつさまです」
小焼の側にいられて嬉しい。思わず頬が緩んでしまう。ニヤニヤしてしまう。
赤い瞳に射抜かれる。やっぱり、キラキラして、綺麗だ。触りたい。キスしたい。セックスしたい。胸が高鳴る。早く、シたい。
「小焼。もうシたい!」
「食べ終わったばかりです。『待て』」
「ん。待つよ。小焼が『よし』と言うまで、おれ、待ってる」
期待で抑えられなくなってきた。ひとりでするの見てもらうか? でも、いざ本番って時に勃たなくなったらどうしよう……。そんなことないだろうけど、ちょい心配。
「部屋行きませんか?」
「おう!」
ずっとキッチンにいる必要も無いもんな。皿は朝に洗えば良いからって流し台のタライに置かれた。
小焼の部屋はきっちり整理整頓されている。新しいゴムとローションがヘッドスペースに並べられていた。あと、エロ動画で見かけるような電気マッサージ器がある。
「この電マどうしたんだ?」
「クチコミ評価が良かったので、買いました。良い感じにほぐれます。使ってみますか?」
「へえ。けっこう強度変えられるんだなぁ」
電源を入れたら、ブブブブ……振動する。おれの脳内では、金髪黒ギャルが潮吹きするめちゃくちゃエロい図しか浮かばないんだけど、小焼は本来の使い方してるんだよなぁ。
「せっかくだし、マッサージしてやろうか?」
「お願いします」
小焼はベッドに寝転がる。遠慮しないよな、わかってた。信頼されてるんだなぁ。
……小焼の見るエロ動画に電マ無いのかな? 凌辱好きだから道具使ったプレイもありそうだけど。
変なことをしたら殴られるから、真面目にマッサージをしてやろう。肩の筋肉が張ってる。アイシングしても良さそうだが、とりあえず今はこれ使っとくか。
「んっ」
「わりぃ。痛かったか?」
「いえ。大丈夫です」
イタズラしたい。性感マッサージしてやりたい。気持ち良いなら許してもらえっかな?
触れる度に、小焼から甘い声が聞こえる。腰を撫でたらビクッと跳ねた。
「もっ、もう良い!」
「え、あ、わりぃ。痛かったか?」
「っ、シャワー浴びてきます」
「おう……」
怒ったか? そんな風には見えなかったから……準備しに行ってくれたんだよな? シャワー浴びてくるって言ったし。
あー、ドキドキする。小焼のベッドに入って転がる。小焼の香りがいっぱいして、腰をベッドに押しつけちまう。シたい。早くシたい。
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