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第26話
全身の血が沸騰しているんじゃないかと思うくらいに熱い。体に力が入らない。どろどろに溶けきった欲が腹の間にはりついている。まだ足りない。もっと欲しい。さみしい。
自分でもひくついているのがわかる。変に気恥ずかしい。夏樹に気付かれていないのが救いかもしれない。
頬を少し赤らめた彼はデレデレと破顔している。人懐こい犬のような笑顔だ。
「えへへっ。おれ、小焼とこういうことできて嬉しいっ!」
「まだ元気そうですね」
「おれのマグナムはリロードも速いぞ! もっかいして良いか?」
「……勝手にしろ」
隣に寝転がる。夏樹は手早くゴムを取り替えていた。新しいのを買っておかないと……、すぐに無くなる。いっそ入り数の多いものを買ったほうが得か? だが、やりまくってると思われるのも嫌だ。
「小焼ー、股開いてくれ」
「その言い方気に食わない」
「ごめんごめん。体柔らかいなぁ」
うつ伏せに寝れば良かった。これだと向かい合うことになる。だが、バックだと夏樹が奥まで来て、おかしくなるから嫌だ。脚を撫でられるだけで、体の中心が熱を帯びていく。変に鼓動が速まる。
指が孔に触れる。さっき入れたんだから、今更慣らす必要も無いっていうのに。
「な、つき! いいから、入れろ!」
「入れるだけで良いのか?」
「ばか!」
「いだっ! ごめんってぇ、ちょっと言ってみたかったんだ! そんじゃ、入れんぞ」
「ヒッ、あ! いちいち言うな、ぁ!」
「急に突っ込んでもおまえ怒るだろ。ンッ、すっごい締まる……!」
夏樹が腰を打ち付ける度に体が跳ねるし、勝手に変な声が出る。動きに合わせて腰が揺れる。こんなの、嫌だ。ローションが流れていってシーツも濡れている。
「あー、きもちい。小焼、きもちい! おれ、腰止まんない!」
「ば、かッ! あ、アアッ! ――は、あアッ! あイッ! にゃ、ッ!」
「いだだっ! 噛むなって!」
何も考えられなくなってくる。意識が一瞬とんだような気もする。夏樹の肩に噛みついてしまったから、歯形が増えた。夏樹の肩が歯形だらけになっている。
視界が滲む。妙な幸福感に包まれて浮かんでいるような感覚だ。唇を重ねて、舌を絡める。舌先だけで舐め合って、互いの唾液を飲み込む。涙に潤んだ大きな目が美味そうだ。食べたい。
「あー! 目は舐めるなって!」
「っ、す、みませ、ンッ!」
「前も言ったけど、失明する可能性があっから、目は舐めんな! 舐めるなら、唇にしてくれ!」
黙って頷いておく。
こういう時の夏樹は、すごく医者らしいと思う。怪我や病の恐れがある時の対応だけは、早い。予防医学のなんちゃらとか聞いたことがあるような気がする。
夏樹の腰に脚を絡ませる。もっと奥まで欲しい。もっと欲しい。夏樹が、欲しい。さみしい。さみしさを埋めてほしい。
「なつき、もっと……」
「ん。わかった。もっとな」
足りない。まだ足りない。もっと夏樹と繋がっていたい。
私を気遣ってか、彼は激しく動こうとしない。ゆっくり。だが、確実にイイトコロに触れてくる。触れられる度に変な声が出る。開きっぱなしの口から涎が流れる。涙が溢れる。
私の上で目を閉じて腰を押し付けてくる彼から普段は感じられない艶やかさを感じる。こんなに色気があったとは思えないくらいには、腰が痺れた。指を絡めた手が熱い。彼の目が開く。
「小焼、すっごいきもちい。おれ、もっ、出そう!」
「あっあ、――んっ、あ……! にゃ、ンあ! イッ、にゃぁっ、き……!」
「あー! 出る! もうっ! 出る――痛いぃいいいい!」
彼を抱き締める。熱い。腹の間に欲が散る。また噛んでしまった……。
やはり口枷が必要なのは、私のほうかもしれない。
夏樹はへにゃっとした顔で私の胸に埋まろうとしていたので、頭を撫でてみた。嬉しそうにしている。無いはずの尻尾を勢いよく振っているように見えた。
「小焼ぇ、もっかい! もっかいしたい!」
「……もう疲れた」
「そっか」
見るからにしょげられた。だからって、何度も相手できない。息苦しいし、腹が減った。腹の虫が鳴いている。私の腑は何かを欲しがっている。夏樹を? いや、夏樹は……食べ物ではない……欲しいけれど。
「したくないとは言ってませんよ」
「そんじゃあ!」
わかりやすい。これほどわかりやすいやつが存在するのかと聞きたいくらいには、わかりやすい。
私はうつ伏せに寝る。これなら夏樹を噛まないで済む。でも、これだと、彼が奥まで触れてくる。欲しいところを全部擦られる。
夏樹が追加でかけたローションが流れていく。ぞわぞわする。これだけでも、感じてしまう。おかしい。前までこんなことなかった。
「――イッ! アッ!」
「わ、わりい! 痛かったか?」
「だい、じょうぶ……、だから、続けろ!」
「おう。痛かったら言ってくれよ」
肌のぶつかる音が大きくなる。駄目だ。興奮してる自分に嫌気がしてきた。快感でおかしくなってくる。
ぎゅぷっ、と、奥に入る音がした、気がした。呼吸が更に荒くなる。嫌だ。ここは嫌だ。変な声が出る。きもちくて、おかしい。
「あぁ! イッ、あっ! まっ、にゃ! っ……き! な、つき! ぃっ! そこ、お――か、しっくな、る!」
「大丈夫大丈夫。おかしくなってもおれが面倒みっから!」
「あー! ばか! ばかぁ! そ、こっ! や、らぁ! にゃつ、き! やっ、だ! あ、ああっ!」
体中が痺れる。力が入らない。ずっときもちいい。おかしい。満たされる。欠けていた何かが、満たされていく。
「――誠に申し訳ございませんでした!」
「お前は何度同じ事をすれば覚えるんですか。謝れば許されると思っているんですか」
「小焼様ごめんなさい! すみません!」
「様付けはやめてください」
けっきょく、5回した。
3回までって言ったのに、どうしてこういつもやりすぎるんだか……。尻がなんとも言えない心地だ。円座クッションにそれほど活躍してもらいたくもない。
夏樹は全裸で床に頭を擦りつけるほど土下座している。この形になる前に一度ジャンプしていた。ジャンピング土下座をする意味がわからない。
頭を軽く踏みつけてやる。
「ごめんってぇ!」
「その性欲が強いところ、どうにかなりませんか」
「うぅ、無理ぃ。ご無沙汰してたから、嬉しくってぇ」
「昨日抜いてたでしょうが」
「セックスはしてねぇもん!」
「はあ……」
確かにセックスはしてなかったが、頻繁にしたいと思わない。
夏樹には発情期でもあるのか? こいつは年中発情期か。
「とりあえず顔上げてください」
「ん。許してくれるってことか?」
「許さないと言ったらどうするつもりですか」
「ひぇ!? 謝る!」
「はあ。許しますよ。あきれてきた」
「ありがとうございます小焼様!」
夏樹はそのまま床にべったり倒れた。暑い時の犬のような伸びっぷりだ。
私はベッドから下りて、彼の頭を撫でてやった。嬉しそうに顔を上げる。
「頭撫でてくれるの嬉しい! 小焼大好き!」
この笑顔を見たら、他の事などどうでも良くなってきた。
唇を重ねて、返事代わりにしておいた。
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