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第17話

はるき先生と一緒に職員室に入り、履歴書を渡し、用意された誓約書を読んでサインをして横に持参していた印鑑を押す。 「園長先生もお話されていましたが、当園は音楽教育に力を入れています。普通の保育が出来る事は当然であり、更に音楽の才も必要となります。その為、僕達職員は教諭をしながら研修を受けたり音楽活動をし、その技術を高めています。君はお子さんがいるので時間的に難しい事もあるとは思いますが、そこは僕達がフォローします」 淡々と話すはるき先生。 優しい言葉をかけてくれたのに、ぼくはその怖そうな雰囲気に変にドキドキしてしまう。 「あ……ありがとうございます……」 「それと……当園は給食がなく、職員も含めてお弁当持参となっております」 「……えっ……」 お弁当と聞いて、ぼくは真っ青になった。 「どうかしましたか?」 「あ……す……すみません、ぼく、料理は全然した事がなくて……」 「……そうですか……」 そう言ったはるき先生のその眼が、冷たい視線をぼくに向けている気がしてならなかった。 「……失礼ですが、おいくつですか?今まで一人暮らしの経験などなかったんですか?」 「に、23です。すみません、料理はずっと実家暮らしで親にやってきてもらってて、就職してからもすぐに結婚して妻にしてもらっていたので……」 その声と眼が逃げ出したいくらい怖いと思ってしまったけど、黙っていたらダメだと思い、ぼくは声が震えて裏返ってしまったけど何とか話をした。 「……君、料理の勉強も必要ですね。新学期が始まるまでに間に合わせられるといいのですが……」 ため息をつくはるき先生。 「せ、先生は料理、出来るんですか……?」 ぼくはすごく怖かったけどはるき先生に聞いてしまう。 「えぇ、小学生の頃に春楓に教わったのがきっかけでするようになりました」 「そう……なんですか……」 気のせいだろうか、はるき先生が少し嬉しそうな表情をしたように見えた。 「僕も必要に迫られて覚えたんです。君もこれからお子さんと暮らしていかなければなりませんから、この機会に覚えるべきだと思います。春楓と春翔に相談してからになりますが、僕達3人で教える方向でいきたいと思います」 「す……すみません、よろしくお願い致します……!!」 ほんの一瞬だったけど、ぼくは少しだけ、はるき先生に対して怖いっていう気持ちが薄れたんだ。

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