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第58話

はるか先生のお母さんが園のホールでコンサートをする日。 テレビ局の取材も来ていて、ゆみ先生が司会を務め、園長先生が最後に花束を渡す係になっていた。 ぼくはクラスの子たちを含め、園児たちを後ろから見守る事になっていて、はるか先生とはると先生はクラスの先頭に、はるき先生は園長先生の隣に座っていた。 「みなさん、おはようございます。私の名前は黄嶋響華と言います。はるか先生のお母さんです」 ステージの真ん中に立ち、黄嶋さんはハキハキとした口調で話す。 その顔立ちや明るい雰囲気は、はるか先生そっくりだと思った。 「今日はみなさんに音楽の素晴らしさを伝えたくて来ました。みなさんの大好きな曲も演奏しますので、一緒に歌って下さいね」 明るい笑顔で話す黄嶋さん。 その笑顔もはるか先生にすごく似ている気がする。 黄嶋さんはクラシックの曲と子供たちが好きな曲、合わせて5曲を弾いて下さった。 その奏でる音色は鳥肌が立つくらい素晴らしくて、ぼくはとても感動していた。 子供たちも知っている曲が演奏されると、嬉しそうに歌っていた。 「最後の曲は、私が大好きな曲を演奏します……」 そう話されて黄嶋さんが演奏したのは、シューマンの交響曲、『春』だった。 『春』。 はるか先生の事を想って弾いている様な気がした。 はるか先生は今、どんな気持ちで聴いているんだろう。 そう思いながら先生を見ると、その背中が震えているのを、ぼくは見てしまった。

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