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第78話
「ゆうたろうくんのママ?」
「ううん、ばぁばだよ」
親子で一緒に座る事になった時、隣の女の子が悠太郎に聞いているのをぼくは見た。
「ママは?」
「いないよ 」
女の子のお母さんが困った顔をしつつ、ぼくを見て頭を下げてくる。
「ゆうたろうくん、ママいないの?なんで?」
周りの子たちも騒ぎだす。
「わかんない。いなくなっちゃった」
悠太郎は不思議そうな顔でみんなに向かって答える。
そんな悠太郎の言葉に周りの保護者の方々は妻が亡くなったと思ったらしく、自分の子供たちにこれ以上悠太郎にお母さんの話を聞くのはかわいそうだからやめるよう話していた。
「もも先生、お若いのに苦労なさってるのね」
「ゆうたろうくん連れてお仕事されてるって事はずっとひとりで面倒見てるって事よね、うちのダンナに言ってやりたいわ〜」
そんなひそひそ話が聞こえてくる。
良かった、悪口じゃないんだ。
悠太郎も周りに騒がれた事を全然気にしている様子もなく、ぼくはホッとしていた。
コンサートは年少さんの子供たちにとって初めて大勢の人の前で歌うという事で、緊張で普段より声が出ていない子が多かった。
悠太郎も同じで、いつもはもう少し聞こえてくる声が今日は聞こえてこなかった。
伴奏だったぼくは、子供たちが歌いやすいようにメロディは大きく、且つ子供たちの声が聞こえるようにそれ以外の音は少し抑えて弾いた。
その弾き方を、コンサートが終わった後、園長先生が褒めて下さった。
「年少さんは毎年ああいう感じだとあえて知らせていなかったのに、お子さんたち、保護者の方々に配慮した伴奏をした事は本当に素晴らしかったよ、もも先生」
「ありがとうございます!!」
悠太郎に会いに来てくれた母も、ぼくの伴奏に感動した、と言い、
「あんたも悠太郎もすごく頑張っているのがよく分かったわ。こうして会えて本当に良かった」
ぼくの運転で家まで送ると、別れ際にこう言って涙を流していた。
「ばぁば、またきてね」
「うん、ありがとう、悠太郎。またね」
母の日。
ぼくは何のプレゼントも用意していなかったけど、今日という日が母にとってプレゼントになっていたらいいな、って都合のいい事を考えていた。
母の日コンサートが無事終わり、年少さんのクラスはその後でちょっとした問題が起こってしまった。
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