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Candy&Drop(1)

 北条秋夜(ほうじょう しゅうや)は私立四天学園(してんがくえん)高等部に通う三年生だ。薄茶色の癖毛のミディアムヘアをゆるく後ろに流したソフトリーゼントが、モデル顔負けの美麗な顔立ちによくよく映えている。長身でスレンダーな体つきも相まって、万人が見惚れるような男前だ。 ――が、そんな出で立ちに似合わずというべきか、腕っ節が達つことでも有名で、故に学園の不良連中からも慕われ、”(アタマ)”として崇められていた。  そんな秋夜には、ライバルといわれている男がいる。近隣校の私立桃陵学園(とうりょうがくえん)で頭を張っている番格で、名を源真夏(みなもと まなつ)という。  濡れた羽を思わせる艶やかな黒髪に似合いの黒曜石のような瞳には、一見しただけで敵わないと思わせるような眼力がある。高身長の秋夜を若干上回るような均整の取れた体格からして立派な風貌で、顔立ちもこれまた秋夜に負けず劣らずの端正さがより一層雰囲気を引き立てているといった具合の男前だ。そして、彼もまた秋夜と違わず腕が達ち、同じく不良連中に崇められてはいるが弱い者苛めや汚いことは一切しないという――いわば男の中の男ともいうべき筋の通ったことで名を馳せているような器である。故に”斉天大聖(せいてんたいせい)”という通り名で呼ばれ、彼の通う桃陵学園のみならず地区内外の広範囲でも一目置かれるような存在だった。  四天(してん)学園と桃陵(とうりょう)学園――双校は古くから犬猿の仲とされていて、不良連中が通うとしても名高いことで知られていた。街中で顔を合わせれば一触即発の間柄、隣校であるが故に対抗心も半端ないというわけだ。どちらも自分たちが一番だと自負していて、相手校をねじ伏せたいと常々息巻いている連中揃いである。そんな願望に決着をつける為、双校の間では年度が変わる新学期を迎えると共に、それぞれの頭同士で一戦を交え、雌雄を決するというのが決め事となっていた。  最上級生から新入生までひっくるめて、腕に自信のあるやんちゃボウズたちが結集する一大集会である。場所は埠頭の廃墟化した倉庫街で行われ、”番格対決”と名付けられたそれは、今や各々にとっての誇りを賭けた伝統行事となっていた。  ところがどういうわけか、この二年の間でそれらはすっかりと息を潜めてしまった。原因は、秋夜と真夏らの二代前の番格たちが意気投合し、これからは四天と桃陵の諍いをやめて手を取り合っていこうと宣言したからである。彼らも元々はこの伝統行事を率いていた側の頭たちであったが、紆余曲折を経て互いを尊重するようになったらしい。  そんな経緯もあってか、しばらくは皆おとなしくそれに従っていたものの、やはり血が疼くのだろうか。時と共にかつての血気盛んなこの行事を取り戻そうとする風潮が高まっていった。そしてついに秋夜と真夏の代で過去の伝統が復活することになったわけだ。  かくして四天と桃陵、そして仲裁役の白帝学園までもが加わって、”番格対決”が行われることとなった。勝敗を決めるのは双校の頭とされる秋夜と真夏の一騎討ち、俗にいうタイマン勝負が行われ、勝ちを手にしたのは秋夜率いる四天学園であった。 ◇    ◇    ◇

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