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無自覚な恋情(8)

『別に用事はねんだけどさ。寝る前にお前の声が聞きたくなった』 「あ、ああ……そう……」 『ま、ちゃんと架かるか確認がてらな』  少し照れたような調子で、楽しそうに言っては笑う。きっとまた例の”はにかんだ”表情でいるのだろう。そんな想像を浮かべながら、秋夜もまた自然と笑みがこぼれるまま、素直な言葉を口にしていた。 「んだよ。さっき一緒に帰ったばっかだってのによ」  クスっと笑いと共に楽しげな感情が声に出る。 『だよな。じゃあ、また明日な。朝も迎えに寄るから、先に行ったりすんなよ?』 「ああ、分かってるって。てめえもあんま無理すんなよ? 来れねえ時は全然構わねえんだからさ」 『ああ。そん時はちゃんと電話すっから。じゃ、夜分にすまなかったな』 「お、おう……。んと……ゆっくり寝ろよな」 『ん、お前もな』 「そんじゃな」 『ああ。――秋夜、おやすみな』 「お、おう……おやすみ」  通話を切りながら、鎮まらない胸の高鳴りに昨夜とは別の意味で苦しくなる。 「秋夜……だって……。い、いきなり呼び捨てとかよ……ビビらせやがって……! 誰が許可したってよ!」  憎まれ口を叩きながらも躍る心は止めどない。思い切りベッドにダイブしながら枕を抱き締めて、変な奇声まで発してしまいそうだった。  そういえば『おやすみ』なんて言い合ったのはいつ以来だろうか。近頃では両親にすらそんな台詞を言ったことがないことに気付かされる。 「秋夜……かぁ……。もっと……もっと呼べよ……」  そう、あの少し低いトーンの色気を帯びた声で何度でも呼ばれたい。 「……クッソ……! 真……夏……。真夏……真夏……真夏ー! おやすみなぁ、真夏!」  バタバタと足で布団を蹴り、枕を抱き締めたままゴロゴロとベッド上で悶えまくる。 「うっひゃー……真夏……! 愛してるぜー! なーんつってな」  冷めやらぬ興奮と満面の笑みが秋夜を包み込み――真夏へと向かう幸せな夜が更けようとしていた。 無自覚な恋情 - FIN -

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