中途半端に閉じたカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。八階建てのマンションの五階という中途半端な部屋は、家主の中途半端さをそのまま表現している気がする。憧れの先生だった三島律と付き合ってみてわかったことは、「この人は意外と中途半端なんだ」だった。 　カーテンをきちんと閉め切っている日は少ないし、ネクタイを結ばないのは上手く結べないからだし、吉野に対しても線引きが中途半端だった。確かにこの人は「悪い大人」だった。 「でも嫌いにならないんだよなぁ」 　吉野を後ろからぎゅっと抱きしめて、寝息を立てている律の気配を探る。規則正しい寝息が聞こえる。これはまだ熟睡しているんじゃないだろうか。手探りで、昨日奪われた吉野のスマートフォンを探す。そんなに遠くにはいっていないはずだ。ほとんど身動きのとれない姿勢で、腕だけ伸ばしてシーツの中を探る。 　あった。 　ロックを解除して、時刻を確認する。 　七時前。 　吉野は今日の一限目の講義はないけれど、律は学校の保健医を続けている。そろそろ起きなくてはいけないんじゃないだろうか。何のために三月に前のマンションを引き払って、より職場まで遠いこのマンションに引っ越してきたのか。理由はひとつだ。元生徒の来宮吉野と同棲するため、だ。 　律は吉野が生徒だった三年間、本当にキス以上のことをしなかった。キスすら中々してくれなかった。だから吉野が未だにキスすることに緊張するのは、その所為だと思いたい。それなのに同棲をはじめた途端、スキンシップが増えた。律に触られるのは気持ちがいいから、好きだ。けれど急なことに戸惑ってしまう。 　最近ようやくくっついて眠ることに慣れてきた。背後から抱きしめられていても、気にせずスマートフォンを弄れるくらいにはなった。それどころか、眠っている律を起こすことにも遠慮がなくなってきている。 「せんせ、せんせぇ、起きて下さいっ」 　腹に回された、吉野よりほんの少しだけ太い腕を叩く。無理矢理からだを捻って、頬でも叩いてやろうと思ったのだけれど、思いの外律の寝顔が近くにあって息を呑んだ。 　特別きれいな顔だとは思わないけれど、好きな顔だ。かたちのよい額の下の睫毛がふるふると震えて、あ、起きる、と思う。同時に目蓋がゆっくりと持ち上がって潤んだ眼球がゆっくりと現れる。やっぱり時間をかけて吉野に焦点が結ばれる。 「……おはよ」