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「おいっ、本条! 何ぼけっとしてんだよ」
山下に肘で小突かれて我に返ると、こっちを睨みつけている男性客と目が合った。
「すみません」
慌ててレジを打ち会計を済ませる。これで何度目かわからない。
ピークが過ぎた頃を見計らって、山下が説教を始めた。
「おまえ、ここんとこずっと変だぞ。ちょっと前までは浮かれてたのに、今日は今日でぼーっとしどおしだしよー。はっきり言っていない方がマシなんだけど。おまえにとっては所詮は掛け持ちバイトかもしれないけどさー、金もらってんだからやることはやらないと」
正論過ぎて返す言葉もない。お気楽そうな山下だけど、意外にも仕事に対しては真面目なのか、と今更気づかされた。
「可奈ちゃんのデートの誘いも蹴ったらしいじゃん。あんなにくどいてたくせに。おまえって、いい加減な奴なんだな」
俺は、ルカに対してもいい加減な気持ちで付き合ってたんだろうか。ふと考えてしまう。女の子みたいにかわいいルカがめずらしくて、つれて歩くのが自慢で、おまけに健気に慕ってくれたから、それで、ついその気になっていただけなのか。
いや、そうじゃない。そうなら、こんなにショックを受けたりしなかったはずだ。今後のことで思い悩むはずもない。
「バイト、やめようかな……」
俺の頭にはオリオン座があった。なのに山下は勘違いして、なだめにくる。
「早まるなよ。そこまで言ってないだろう」
山下は何か言い続けていたけど、俺の耳には入ってこなかった。
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