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プロローグ

 とんとん、と優希(ゆうき)は人差し指で自分の顎を軽く二度つついた。  目の前には、要人(かねと)。  彼は優希のジェスチャーに照れくさそうな顔をした後、顎をざらりと撫でた。  顎には、もう人目にも解かるようになってきた髭が。  要人は朝から鏡を見ないような、無精な男ではなかったはずだけど?  怪訝そうな優希の視線に、彼は照れ笑いした。 「おかしいかな」 「おかしいと言えばおかしいし、解かると言えば解かる」  二人並んで、歩道を歩く。  幼い頃からもう何年も変わらない、二人の日常を歩く。 「伸ばすのか、髭」  二人の通う高校の校則では、髭を伸ばすことは違反ではない。  教室には少なくとも3名程度はスタイリッシュな髭を整えている男子がいる。 「うん。似合うかな、変じゃないかな?」  それは伸ばしてみないと解からないな、と優希は笑った。  しかし、なぜ髭を? 「イメチェン? それとも、早く大人として周囲に扱ってほしいのかな」 「両方さ」  そう言う要人の眉尻は下がり、情けない表情になってしまっている。

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