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第三章・17
「できたね、キス」
「うん、やっとできた」
後はもう、夢見心地になってしまった優希ともたれ合い、ぼんやりと天井を眺めてしばらく過ごした。
温かい余韻を、味わった。
やがて優希の方からゆるりと動き、もう帰るよ、と言ってきた。
「この本、やっぱり君にあげるよ。本当は、欲しかったんだろう?」
優希が例の本を差し出してくれたが、要人は首を横に振った。
「いや、もういい。いいんだ、続きは読まなくても」
一冊の本を読むより、大切な貴重な経験ができたよ。
それだけで、充分。
「優希、その本読んでいろいろ研究してよ。エロい事」
「もう!」
本で叩こうとする優希から、頭を防ぎながら要人は笑った。
優希も、笑っている。
これでいいんだ。
これがいいんだ。
要人は、改めてそう感じた。
もう一度、初恋の気分を味わっていた。
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