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第四章 箱
朝、いつもの待ち合わせ場所へ優希が向かうと、そこにはもう要人が待っていた。
優希の姿を見て取ると、軽くその場でぴょんぴょん跳ねている。
優希は、くすりと笑った。
もう待てない、早く見せたい、聞かせたい、ということがあるとそうする、要人の幼い頃からの癖だ。
最近では鳴りを潜めていたが、久しぶりに彼のそんな姿を見た。
「おはよう、要人」
「おはよ、優希」
朝の挨拶もそこそこに、後ろにまわしていた両手を要人は優希の前に、さっと突き出してきた。
「はい、プレゼント!」
「これは……」
上品な赤にバラの花の型押しがしてある包み紙、金色のリボンでラッピングされた四角い箱。
確かに、どこから見ても特別な贈り物だ。
目を円くする優希に要人はにこりと笑った後、やっぱりね、と声をかけた。
「優希、今日は何の日でしょう?」
プレゼントを優希に手渡し、要人は歩きながら話を続けた。
「2月14日・バレンタインデーだ」
要人たちの通う学校では、あまり歓迎されていない風習だ。
もっともそれは、教師たちの間でだけの話だったが。
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