58 / 105

第四章・9

 部屋へ戻って箱を開けた要人は、その中身に顔をほころばせた。  ガラス製の天球儀を模したケースの中に、トリュフが数個入っている。  その一つを口の中で溶かしながら、今朝がた自分で喋った言葉を思い出していた。 『バレンタインデーには、恋人同士でプレゼントを交換するだろう?』  ああ、もう! 優希って! 優希ってば、もう!  その場で身悶えし、ごろんばたんと体をジタバタさせて要人は喜んだ。  今まで何となく一方的だった自分の好意。  ようやく優希が応えてくれた気が、優希の方から好きだと言ってくれた気がしていた。 『生徒間におけるバレンタインデーの普及率とその弊害について』  午後の役員会議では、やはりこの議題が上がった。  だがしかし。 「バレンタインデー、万歳!」  要人は両手を天に突き上げて、この俗な、商戦にまみれた愛の日を称えた。

ともだちにシェアしよう!