59 / 105
第五章 猫
はぁ、と溜息をつきそうになり、要人は慌ててそれを押し殺した。
(気づかれたかな? 気づかれただろうな)
心を引き締めなおし、再び作業に取り掛かる。
窓もない、家具もない。
時計すらない、ただ四角い広い部屋。
首を上げたとしても目に入るのは、アイボリーホワイトの壁紙だけだ。
そして要人同様、もくもくと作業を続ける4名の生徒たち。
椅子に腰かけデスクの上で、ただ手先だけを動かす作業。
部屋中央に固めて設けられたシンプルなデスクの上には、それぞれに領収証の冊と黒インクのスタンプ台、そしてこれまたアナクロな木台ゴム印が。
前時代的、というよりお目にかかったこともない代物を使って、ただひたすらに領収書をめくり判を押す作業を、要人たちは強いられているのだ。
ともだちにシェアしよう!