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第五章・24
「いらっしゃいませ。猫カフェは初めてですか?」
店長とおぼしき女性に声を掛けられ、きょろきょろと落ち着きなく周囲を見廻していた二人は我に返った。
「あ、いえ。1ヶ月くらい前に、ここに来たんですけど。お店、建て替えたんですね」
「お婆さんは、お元気ですか?」
深い考えもなしに口にした言葉だったが、店長は随分驚いたようだった。
「えっ、1か月前に!? ……もしかして、その時の店は木造で。店名は『もふもふ亭』だったんじゃ」
そうですけど、とやはり素直に返事をした要人と優希だったが、店長の言葉に今度はこちらが驚く番だった。
「まったくもう、お婆ちゃんったら。また出たのね!? すみません。祖母はもう、30年近く前に亡くなったんです」
「えええッ!?」
「でも、僕たちはそのお婆さんと話をしたり……」
だが店長は、時々化けて出るんです、と当たり前のように言うのだ。
「お二人の事、気に入ったんでしょうね。これからもお越しいただけると、また出会う機会があるかもしれませんよ」
何だか狐につままれたような心地で、少年たちは店長の出してくれたアイスティーをいただいた。
いや、ここは猫カフェなんだから、狐でなく猫につままれたのかもしれない。
「幽霊でも怖くないよな。あのお婆さんなら」
「そうだな。また会えるといいな」
アイスティーをストローで吸いながら、要人は眼を閉じ心の中で老婆に語りかけた。
(おかげさまで、Bの入り口まで到達しました。今度はぜひ、Bの中ほどまで……)
そんな彼の足もとに擦り寄ってきたのは、やけに丸々とした黒猫だった。
にゃあ、と要人に鳴くその声は、がんばりなさいよ、とあの老婆が応えてくれたように感じられた。
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