6 / 8
第6話※
「──お前はどうしたい」
そんなの決まっている。牧人様の……マキトの隣で、ずっといたい。
もっと言えば、マキトにも自分の横にいてほしい。
身体が紛い物だとしても、この『感情に似たもの』が紛い物かどうかなんて、きっと誰にも測れないはずだ。
──ジークの心のなかには今、人間と人形を超えた、明確な〈意思〉があった。
『自分は、人間じゃない』。
そんなこと、誰よりも一番自分が分かってる。
それでもこの、今にも込み上げる声が、あくまでプログラムに組み込まれた想定内だとしたら。
人間の感情も本人の意志ではなく、あくまで『脳が勝手に生み出した自動応答』の一環ではないと、どうして断言できるだろう?
──あぁ。今にも快楽に飲まれそうで、思考が霧散する。
「……と、──たい」
「ハッ……いま何、て……」
力みすぎたか、聞こえなかったらしい。寄せられた耳元を上半身ごと抱き寄せて、今度こそ言ってやった。
「マキトと、結婚……したい!!」
……言ってしまった。
そしてもう、どうにでもなれと思ったわたしは、衝動に任せて腰をグッと、その最奥へと突き挿れた。
「貴方が……好きだ! 人じゃなくても、その資格が無くっ、ても……わたしは、貴方のそばにいたいっ」
「ようやく、言ったなぁ。ンゥッ……たく、口説きながら、更にデカくなりやがッ……あぅっ──」
汗ばんだ背中ごと、機械の両腕でその細身な体を抱きしめた。
今はただ、腕の中にある温もりに集中したい。
もしかしたらこれが、愛しい存在 を腕に抱ける最後の機会かもしれない。
『この時間が終わらなければいいのに』。より一層、そう思った。
──人間とヒューマノイドの結婚を、この国の法律は認めていない。
人造物はあくまで人造物らしく、人間にとって安全で、都合のいい存在でいなくてはならない。
しかしヒューマノイドには、人間が親しみやすさを感じられるよう、人間の感情を模したプログラムが組み込まれている。
会話をして笑い、蔑まれて悲しみ、怒り、絆を感じて喜ぶ。
ヒューマノイドも人間と同様それらのことが可能であり、そこに人間であるか、人造物であるかなど、些末なことじゃないのか。
それはきっと、マキトも同じ考えなのだろう。
浅霧家には他にも数人のヒューマノイドが働いているが、その誰にでも、彼は人間に対するように話しかける。
その姿を屋敷の主、お父上に咎められたとしても、マキトは信念を曲げなかった。
『人間もヒューマノイドも笑うし、泣く。そこに何の違いがあるんだ』
実父にそう問いかける彼を、わたしは世話係として部屋の後ろで静かに見守っていた。
何があってもこの人に付いていこう。……今思えば、マキトのこの言葉を聞いたあの日から既に、わたしの心は囚われていたのかもしれない。
そのことを自覚した途端、ジークの中で何かが弾ける音がした。
「アァッ……マキト、何か、ク、る……」
「ッ……それで、いい……そのまま、衝動に身を委ねて──俺も、あ、アァッ……!」
「「────ッ!!」」
頭が白く染まるほどの絶頂感が襲うと同時に……ジークの主電源が、スリープに切り替わる音がした。
ともだちにシェアしよう!