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第6話※

「──お前はどうしたい」  そんなの決まっている。牧人様の……マキトの隣で、ずっといたい。  もっと言えば、マキトにも自分の横にいてほしい。  身体が紛い物だとしても、この『感情に似たもの』が紛い物かどうかなんて、きっと誰にも測れないはずだ。  ──ジークの心のなかには今、人間と人形を超えた、明確な〈意思〉があった。  『自分は、人間じゃない』。  そんなこと、誰よりも一番自分が分かってる。  それでもこの、今にも込み上げる声が、あくまでプログラムに組み込まれた想定内だとしたら。  人間の感情も本人の意志ではなく、あくまで『脳が勝手に生み出した自動応答』の一環ではないと、どうして断言できるだろう?  ──あぁ。今にも快楽に飲まれそうで、思考が霧散する。 「……と、──たい」 「ハッ……いま何、て……」  力みすぎたか、聞こえなかったらしい。寄せられた耳元を上半身ごと抱き寄せて、今度こそ言ってやった。 「マキトと、結婚……したい!!」  ……言ってしまった。  そしてもう、どうにでもなれと思ったわたしは、衝動に任せて腰をグッと、その最奥へと突き挿れた。 「貴方が……好きだ! 人じゃなくても、その資格が無くっ、ても……わたしは、貴方のそばにいたいっ」 「ようやく、言ったなぁ。ンゥッ……たく、口説きながら、更にデカくなりやがッ……あぅっ──」  汗ばんだ背中ごと、機械の両腕でその細身な体を抱きしめた。  今はただ、腕の中にある温もりに集中したい。  もしかしたらこれが、愛しい存在(ヒト)を腕に抱ける最後の機会かもしれない。  『この時間が終わらなければいいのに』。より一層、そう思った。  ──人間とヒューマノイドの結婚を、この国の法律は認めていない。  人造物はあくまで人造物らしく、人間にとって安全で、都合のいい存在でいなくてはならない。  しかしヒューマノイドには、人間が親しみやすさを感じられるよう、人間の感情を模したプログラムが組み込まれている。  会話をして笑い、蔑まれて悲しみ、怒り、絆を感じて喜ぶ。  ヒューマノイドも人間と同様それらのことが可能であり、そこに人間であるか、人造物であるかなど、些末なことじゃないのか。  それはきっと、マキトも同じ考えなのだろう。  浅霧家には他にも数人のヒューマノイドが働いているが、その誰にでも、彼は人間に対するように話しかける。  その姿を屋敷の主、お父上に咎められたとしても、マキトは信念を曲げなかった。 『人間もヒューマノイドも笑うし、泣く。そこに何の違いがあるんだ』  実父にそう問いかける彼を、わたしは世話係として部屋の後ろで静かに見守っていた。  何があってもこの人に付いていこう。……今思えば、マキトのこの言葉を聞いたあの日から既に、わたしの心は囚われていたのかもしれない。  そのことを自覚した途端、ジークの中で何かが弾ける音がした。 「アァッ……マキト、何か、ク、る……」 「ッ……それで、いい……そのまま、衝動に身を委ねて──俺も、あ、アァッ……!」 「「────ッ!!」」  頭が白く染まるほどの絶頂感が襲うと同時に……ジークの主電源が、スリープに切り替わる音がした。

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