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最終話「新生活」

 ──それから数日後。  秘密裏にマキナスへ入った二人は、無事国籍を手に入れることに成功していた。  牧人の貯金で借りた新居は広さ、内装共に浅霧(あさぎり)邸には遠く及ばないものの、男二人で暮らすには十分な広さと、設備を兼ね備えていた。 「まさか本当に、僕に国籍を与えられる日が来るなんて──」  外交官から事前に話が通っていたこともあり、役所での手続きは円滑に終わった。  生活用品など買って帰る道すがら、そして今現在自宅へ戻ってからも、ジークは感慨深いあまり、何度も同じ言葉を呟いていた。 「これでもう、浅霧家に追われる心配もないわけだ。……で、どうする?」 「どうするって、何を?」  浅霧家を出た今、牧人に敬語を使う理由がジークにはもう無い。    牧人本人の要望もあって、マキナスに来てからは互いにタメ口で話すようになった。ジークも一人称を『わたし』から『僕』へと変えている。 「何って、結婚祝いだよ」 「いいねそれ、何しようか」 「お前と何かしら記念になるようなことができるなら、何でも良い」 「……じゃあ、こんなのはどうかな」  ──翌日。  ライア家(浅霧はもう名乗れないので、婚姻届を出した際にジークの性に変えた)の食卓には、豪勢な料理たちが所狭しと並んでいる。 「すげー! お前、浅霧で料理担当じゃなかっただろ。何でそんなに料理できるんだ?」 「わたし……ゴホン。僕みたいな執事型ヒューマノイドなら大抵、料理の基礎プラスαくらいは事前にインストールされてる。今回はそれを僕なりに応用して、パーティー料理に昇華させてみたんだ。牧人、ちょっとこれ味見してみて」  ソースらしきが入った小皿を渡され、牧人がくい、と中身を口に含む。 「んっ……まぁ!! なんだコレ、チキンのソース? 甘すぎず辛すぎず、鳥の出汁が濃厚で……」 「気に入ってくれたなら良かった。初めて作ったから不安だったんだ。君の想像通り、テーブルの中央にある鳥の丸焼きに使ったソースだよ」  料理はジークが。飾り付けと買い物を牧人。  元の家でパーティをするとなれば、動くのは常に召使いたちヒューマノイドだった。  ジークはそういった催し物の準備に慣れていたが、牧人にとっては今回が初めて。  だからこそ、『一緒にやるパーティ準備』はそれだけで新鮮だし、対等でいられる関係性が、二人にはとても心地よく感じられたのだ。 「……じゃ、改めて」 「これからもよろしく、牧人」「これからもよろしくな、ジーク」  牧人はシャンパン、ジークは体の構造上アルコール類は飲めないので、ヒューマノイド専用の液体燃料(高級ワイン風)を片手に、乾杯した。 「それにしても、良い部屋が見つかってよかった。そこそこ広いキッチンに風呂、トイレは別、しかもマーケットも近い。……角部屋だから、隣接しない部屋でやれば声も気にしなくていいしな」 「……もぉ、牧人のエッチ」 「ん? そんなこと言ってジーク君、この硬いものは何かな?」  テーブルの下から足を伸ばし、牧人がジークの股間を(まさぐ)ってくる。 「そ、それは……」 「おっぱじめた時あんあん喘ぐの、どちらかと言えばお前の方だろうが。何を今更カマトトぶってんだ」 「……って、──ん、もん」 「ン? 何だって……」 「だって、牧人の中気持ちいいんだもん。……しょうがないじゃないか」  顔が熱い。蚊の鳴くような声でジークが言うと、牧人は空いた左手で口元を押さえ、明後日の方向を向いた。 「……その顔、俺以外の前でするなよ?」 「え、何が……」 「もう良い! さっさと食わねぇと、せっかくジークが作った美味い飯が冷めちまう。いっただっきまーす!!」  予め切っておいたマルゲリータピザを両手に持ち、大口を開けて食べる牧人。  がっつきながらも美味しそうに食べるその姿に、思わず表情が緩む。 「ふふっ。……喉につまらせたら大変だから、もうちょっとゆっくり食べなよ」 「うるへー! お前もちんたらしてたら、俺が全部食っひまうからな」 「ハイハイ」  そうして緩やかに、二人の夜は更けていく。  ……食後二人のカロリー消費が捗ったことは、言うまでもない。  ──完

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