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終章~side 蓮人~
「また後で、な」
とウィンクしてくるこの小悪魔を、どうしてくれようか。
春樹はいつまでも何処までも愛らしい。
きっとお爺ちゃんになるまで、変わらないのだろう。
添い遂げるまで、永遠に。
「ママー!パパー!見てー!」
蓮人が回想に耽っていると、芽が花畑を駆け回りながら呼び掛けてきて、笑顔で手を振る。
隣で春樹も幸せそうに微笑んでいる。
その笑顔は慈愛に満ちていて、この世の何よりも尊かった。
未だ幼い顔立ちをしているが、目尻の皺が深まっており、僅かに年齢を感じる。
それがまた、愛おしくて仕方ない。
(まさか俺が、こんなに幸せになれるなんて)
今でもたまに、夢なんじゃないかと思う。
幼少期には辛い出来事ばかりで、明るい未来が想像出来なかった。
それが高瀬家に救われ、最愛の人である春樹と結ばれて、子供まで授かるなんて。
幸せのあまり、時折怖くなるくらいだ。
そのたびに、
(春樹さんと芽を絶対に守り抜こう)
と決意を新たにする。
こちらが真顔で見据えているのに気付いたらしい春樹は、ちょっと照れ臭そうに、
「何だよ~マジマジと見て」
「いえ、相変わらず可愛いなって」
「も~お前って奴は……」
春樹は呆れた様相で、しかし口元は嬉しそうに緩んでいる。
蓮人は胸がいっぱいになり、そっと彼の頬に手を添え、こちらに向
「ママー!パパー!プレゼントー!」
(……うん、相変わらず芽のタイミングは凄いな……)
まるで見計らったかの如く、間に割って入る芽。
蓮人は内心残念に思いつつ、自分達の為に『プレゼント』を用意してくれる我が子が、可愛くて仕方ない。
「プレゼント?何かな?」
「パパにはね、これ!お花のブレスレット!」
差し出された小さな手の上に、ちょこんと白い花で作られた輪っかが乗っている。
親バカかもしれないが、さすが手先が器用だと感嘆した。
既に高瀬家の血筋が見え隠れしている。
何よりその優しい心遣いに、目尻が下がって。
「ありがとう。凄く綺麗だ。大切にするね」
「うん!へへっ。ママにはこっち!」
「おうっ。……って、ん?」
春樹が素っ頓狂な声を出したのは、芽が何故か左手を掴んできたからだ。
蓮人も首を傾げているとー何と。
芽はその薬指に、同じく白い花で作った指輪をはめた。
(???ん???)
蓮人と春樹が唖然としていたら、芽は無邪気に笑い、
「僕、ママと結婚するから!ずーっと守るからねっ」
想定外の言葉に呆気にとられる二人を置いて、芽は「今度はネックレス作ってくる~」と悠長に去って行く。
暫くして蓮人はハッと我に返り、
「お、俺、親子は結婚出来ないって言ってきます!」
「っておいおい。まぁそんな焦らなくても、いつかは分かるだろ」
「いや、でもこういうことは早めに言っておかないと」
「ふふ、心配ってか?」
久しぶりに嫉妬心を剥き出しにしてしまい、蓮人は耳まで赤くなるのを感じた。
(また子供じみたことを……)
と後悔の念に駆られるも、やはりここは譲れない。
蓮人は。
俺は。
出会った瞬間、春樹を嫁にすると決めたのだから。
例え誰であろうと、この座は譲れない。
春樹はそんな心情を汲み取ったかのように、幸せそうに微笑を浮かべ、
「そういうとこも、……愛してる、ぞ」
(ああーっ!もうっ!)
やっぱり俺の嫁は世界一、いや宇宙一可愛い。
蓮人はしかし、荒ぶりそうになる自身を何とか抑え、
「俺も誰よりも愛してます」
と真摯な声色で告げ、その唇に軽くキスを落とす。
春樹がより笑みを深めた所へ、芽が「あー!僕もママにチューするー!」と駆けてきて、再び争奪戦の幕が開けたのだった。
FIN
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