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結斗は身体が子供から大人になるにつれ、誰かとセックスをしたいみたいな欲を持つようになったが、同じような欲求を純が持っているとは想像出来なかった。
純の部屋は性の匂いがしなかった。
家族のように兄弟のように感じていたから。
同じように成長して大きくなった。でも結斗の中で純は子供の時のまま時間が止まっている。
地下の部屋はピアノと遊びにくる結斗だけで構成されていた。
それに対して、結斗の部屋には、いつだって俗っぽいものが溢れていた。
純は、それを目にしても結斗と同じように顔を赤くして焦ったりはせずに「ゆいは、こんなのが好きなの?」と綺麗な顔で笑うだけ。
エッチな漫画を読んでも、結斗のスマホのヤバ目な検索履歴を目にしても同じ反応だった。性的なものに関しては総じてさらりと流して興味なさげ。
だから結斗が当たり前のように持っている、その衝動が同じように純にもあると少しも考えられなかった。
――ピアノの前でオナニーしてる純を目にするまでは。
正確には地下にある純の部屋。
プライベートな場所で一人性欲を発散しているくらい、年頃の男なら普通のこと。なんら驚くことでもないし結斗が純のそれを目にしてしまったのは、ただの事故だった。
その日は、いつもと同じように高校の帰りに純の家に行った。小さな子供みたいに突然部屋に入って驚かせてやろうと足音を忍ばせて部屋向かった。ゆっくりと音を立てずに扉を少し開けて中を伺う。
すると純が一人で下半身を擦っていた。
その熱っぽい空気が、こっちまで伝わってきたみたいで結斗の頬が赤くなった。灰色の学ランの内側に熱が篭る。
結斗は、それを見て「男だし、健康だったら、まぁするよな」と思えなかった。自分だって同じことをしているのに、あまりにも純のイメージになかったので、驚いてからかうことが出来なかった。普通に何やってんだよ溜まってんのって笑って言えば良かったし、言ったところで自分たちの関係にヒビが入るとも思えなかった。
なのに、ただひたすらに戸惑っていた。
どうして純が? 興味ないんじゃなかったのって思っていた。
何を考えて何を思って一人で気持ちよくなっていたのか。今思えば、そういう純の性欲の対象を知りたくなかったのかもしれない。自分の中で純はきれいなものだったから。
声をかけるタイミングを失い、結斗はドアの前で、じっと息を潜めていた。見ている訳にもいかず、その場から立ち去るために再び階段を上がっても気づかれそうだった。
壁を背にして目を閉じて座っていた。
ピアノの前に座り頬を染め、うっすらと口を開けて己のものを擦っている純の姿は、目を閉じても眼裏から離れなかった。ドキドキして頭の中がふわふわした。
結局、いつ終わるとも分からないそれをドアの前で息を潜めて待っていたら、数分後にしれっとした顔をして純は部屋から出てきた。
隣に立つ純を見上げる。
純は、いつの間に、こんなに大人になったんだろうって思った。
紺色のブレザーに燕脂のネクタイの高校の制服。結斗とは違う高校に行った自分の片割れが一瞬だけ全然知らない人に見えた。
声を聞いたら、ちゃんと自分の幼馴染だった。
――そんなとこで何してんの、寒くない?
焦って驚く純が見られるかもしれないという結斗の予想は外れた。
――は、走ってきて、疲れたから休んでた!
焦って驚いたのは自分だけだった。
――そう。じゃあお茶、いれてこようか。
結斗の苦し紛れの言い訳にも、いつもと変わらない反応を返される。
その場に一人残された結斗は幻でもみたような気持ちになった。
そんなふうに幻のように思っているのに、結斗は何故か今もあの日の映像を思い出してしまう。そして、その数秒の映像は、折に触れ結斗の股間を誤作動させた。
自分がみたことのある、どのアダルトビデオより刺激的で心臓に悪い映像。
どこで間違ってしまったのか結斗は最近よく考える。
純の自慰を見てしまったことが、きっかけかもしれないと思った事もある。
純は綺麗だから。
あれが一種の倒錯的な感情を自分に植え付けたのだとしても、おかしくはない。ただ同時に男として生物的に当たり前である純の自慰行為一つを見たくらいで、とも思う。
きっと一緒に過ごした長すぎる時間。
少しずつ、間違えてしまった。
結斗は、時間が原因だと思っている。
けれど、二人で過ごした時間は、どこを思い出しても、全てが温かくて、幸せで、純がくれたものに間違いなんか見つからなかった。少しの瑕疵もない。
結局、自分の持っている心だけが、間違っている気がしてならなかった。
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