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 そして、翌朝、目が覚めたら結斗の望み通り世界が変わっていた。  昨晩のうちに、瀬川が投稿したMOMOの動画が、サイトのカテゴリーランキングで、再びランキング一位になった。チャンネル登録者数も二倍になっていた。  結斗は、その結果を見て、過去の自分のことを思い出していた。  クリスマスのこと。  調子が悪い中で歌った不完全燃焼の歌。後悔しか残っていない。  もっと自分はいい歌が歌えるのに、最低な歌を純や由美子さんに聴かせた。本当に聴かせたい、大好きな歌が純に届かなかった。  下手くそで、最低な歌。  周りの評価に対して自分の声を歌を好きになれなかったのは、これが二度目だった。  スマホに届いた瀬川からのメッセージには「お前、この先どうしたい? プロになるの?」と、また書いていた。  結斗自身、結果を見て嬉しいよりも戸惑っていた。純へのあてつけで歌った曲。  それが想像していた以上に周りから評価された。  ――ただ、それだけのことだろ。  結斗は勢いをつけベッドから上半身を起こし、枕元にスマホを放り投げる。  土曜日は母の仕事が休み。まだ寝ているだろうと思ったが、リビングへ行くと休みの日にしては珍しく化粧も身支度も終えた母は、ちょうど出かけるところだった。 「起きたの? 私もう出るけど」  仕事に行くにしては手に持っている荷物がいつもより多かった。 「……土曜なのに仕事?」 「あれ、言ってなかった? 今日から父さんのところ泊まってくる」  聞いてねぇよと思ったが、いつものことなので聞き流す。母親がいなければ生活できない小さな子供でもない。 「いつ帰るんだよ?」 「月曜日の夜」 「あっそ、行ってらっしゃい。父さんによろしく」  洗面所で顔を洗っていると、顔を上げた時に母と鏡越しに目があった。 「あんた、もう元気になったの?」 「何が?」 「母親がめずらしく作ったご飯も食べずに、爆睡してたから」 「いつも作れよ」 「えーなになに、ママのご飯がそんなに好きだったの? 言ってよ、作らないけど」 「自分で作ったご飯の方が好き」 「まぁ、君のご飯美味しいからねぇ」  濡れた顔をタオルで拭いていると寝癖だらけの髪をさらにぐしゃぐしゃにされた。 「そうだ今日、純くんの家行くなら、机の上に置いてるお菓子持って行ってね」 「なんで」 「どうせ行くんでしょう?」 「……多分」 「東京出張のお土産だから」 「なんで、息子の俺にじゃなくて純に土産なんだよ」 「あんたは純くん家で一緒に食べたらいいでしょう。じゃあ、行ってきまーす。戸締りはちゃんとしてね。ガスの元栓もしめて」 「はいはい!」  昨日行けなかったし、今日こそ純の家に行こうと思った。母親を適当に送り出し、キッチンで昨晩作ったという母親作のオムライスをレンジで温めた。 「――また、オムライス」  そう、ひとりごちる。  昨日は、昼に大学でオムライスを食べた。  冷蔵庫にある残り物の食材で作るのは良いにしても、計画を立てるとか調整をするということをしない。母親のこういう部分を見るたび彼女に何十人も部下がいるなんて嘘だと思う。チキンライスのなかに入っている刻んだ玉ねぎも人参も絶妙に炒め足りないから苦い。味付けも薄い。文句を言えば「じゃあ、ご自分でどうぞ?」と返されるだろう。その結果が今の自分の料理の腕だ。  最後まで食べた感想は変わらず「自分で作った方が美味い」だった。  それでも、母親の料理だなと思うだけで改善して欲しいとは思わない。  わかりにくい母親の愛情みたいなものを感じるのは、いつだって、このくそまずい料理を食べた時だ。

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