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熊田先輩
今度、配属になった部署には、僕の好みど真ん中の人がいる。
熊田政則、三十一歳。
僕より四つ年上。
寝癖なのかぼさぼさの髪、しわだらけのよれよれのシャツ、ださい黒縁の眼鏡。
ネクタイはたぶん一週間、五本をローテーション。
お昼はいつも、コーラと駄菓子、うまか棒を片手に本を読んでる。
こんな人だから、もちろん独身。
どこがいいのかと云われると困ってしまうが、僕のお世話したい欲をがんがん刺激してくる。
……だから僕は。
飲み会で酒にあまり強くない先輩にさりげなく勧め、酔った先輩を介抱するふりをして部屋に上がり込んだ。
「先輩、水です」
「……わるいな」
コップに注いだ水を渡すと、先輩はふにゃんと気の抜ける笑顔で受け取った。
……いや、それ、ヤバいですって。
先輩の住んでるアパートの部屋は、まさしく男の一人暮らしな部屋だった。
洗濯物はたたみもせずに積んであるし、洗ってあるのとそうでないのとの区別がついてるかも怪しい。
ワイシャツも無造作に混ざってるから、いつもしわしわなのは当たり前。
衣装ラックにはネクタイが四本ほど、結んだ状態でハンガーに掛けてある。
やはり五本をローテーションで、しかも朝、首を突っ込んで締めればいいというていたらく。
テーブルの上や周りには、うまか棒の残骸と、コーラのペットボトルが散乱しているが、……まさかとは思ってたけど、うまか棒が主食なのか、この人?
さらにはベッド上や床は本が占領していて、どこで寝てるのか不思議になる。
開けた押し入れの中からキノコの生えたパンツが雪崩てきたって、さほど驚かないな、これじゃ。
「せんぱーい、部屋、散らかりすぎじゃないですか?」
「んー?
ああ……」
コップを握ったまま、先輩はうつらうつらし始めていた。
「僕、片づけ得意なんですよ。
明日、掃除していいですか。
それと、終電おわちゃったんで、泊めてもらっていいですか」
「あー、……うん」
がっくりと首が落ちたかと思ったら、先輩は気持ちよさそうに寝息を立てていた。
そっとその顔から眼鏡を引き抜き、ベッドに寝かせる。
服を脱がせると先輩のものが少しだけ、起きあがっていた。
……そこもお世話してあげたいですが、いまはまだ。
この先を考えると楽しくなってくすりと小さく笑いが漏れる。
電気を消すと先輩の隣に潜り込んだ。
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