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主食?
朝、目が覚めると先輩はまだ眠っていた。
起こさないようにベッドを抜け出し、台所を漁る。
熨斗のついた、未開封な米と申し訳程度の調味料、これも未開封で賞味期限ぎりぎりな卵が出てきた。
調理道具は鍋くらいしかない。
……なに食ってるんだ、この人、いつも。
ほんとにうまか棒が主食?
玉子粥くらいならできそうというか、それしかできないので作っていると、先輩が起きてきた。
「……うまそうな匂いがする」
「おはよーございまーす」
台所にいた僕と目が合うと、先輩は思いっきり目を細めて、睨むように見てきた。
その状態でしばらく悩むときょろきょろとあたりを探し、ようやく目的物を見つけたみたいで眼鏡をかけて振り返る。
「なんで深谷がいるんだ?」
こてん、不思議そうに横に倒れた首。
寝起きだからかいつも以上にもっさもさで顔を半分隠してる前髪。
……だから。
なんでそんなに、いいとこついてくるの?
「昨日、先輩送ってきたら終電なくなっちゃって。
泊めてもらったんですよ」
「そうだっけ?」
お願いだから、シャツの下からてー突っ込んで、さらに大あくびしながら腹をボリボリ掻かないでください。
「先輩がいいって云ったんですよ。
……もしかして今日、この部屋の片づけする許可くれたのも、忘れてます?」
「は?」
眼鏡の奥の目が思いっきり見開かれて先輩が制止した。
「あ、……いや」
先輩の視線が挙動不審に泳ぐ。
やっぱり、忘れてる。
いや、それも承知の上で昨日、話をしたのだけど。
「とにかく。
朝メシにしましょう。
できましたから」
長いこと使った形跡のない、どんぶりは発掘できていたので、それを洗ってできあがった玉子粥を出す。
「どうですか?」
「……うまい」
ふーふーと熱い玉子粥をさましながら食べてる先輩を見てた。
先輩が僕の作ったメシを食ってる。
これほど幸せなことがあるだろうか。
「ん?
おまえは食わないのか」
「あー、そのどんぶり以外に使えそうな食器が見つからなくて」
「……すまん」
情けない顔でスプーンをおいてしまった先輩に慌てて否定する。
「いいんですよ!
交代で食べれば問題ないですし。
それより。
炊飯器ないのになんで米が?」
鍋で炊く派なのかとも思ったけど、鍋もほとんど使われた痕跡がなくて、疑問だった。
「福引きで当たったんだ。
米があるならたまには玉子かけご飯にして食おうと思って玉子も買ったが、炊飯器がないのを後で思い出して放置してた」
それで。
熨斗付き未開封、だったわけか。
照れて笑う先輩はまた、思いっきり僕のいいところをついてきて、我慢するのに必死だった。
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