48 / 149

もうひとつのであい(1)

雨に濡れながら… 僕はそのまま、すぐ側の木の下にしゃがみ込んだ。 もう、すぐ近くには、学院をぐるりと囲んでいる高い鉄格子の壁があった。 と、急に… 暗闇をパァーっと照らす、ヘッドライトの灯りが近づいてきた。 ブロロロロ… キィー。 その車は、その壁に沿って止まった。 後部座席のドアが開き…中から1人の少年が出てきた。 バタン。ブロロロロ… その少年を降ろすと、車はまたすぐ走り去って行った。 すると、その少年は…なんとその鉄格子をよじ登って、壁を超えて中に入ってきた。 どうやら、この学院の生徒…らしかった。 雨の中…急いで走り去ろうとして、彼は、木のたもとにうずくまる僕に気が付いたようだった。 不思議そうな目で、僕を見て…言った。 「…お前…何してんの?」 僕は、顔を上げ…彼を見つめ返しながら応えた。 「…あんたこそ、どこ行ってたの?」 「…」 僕らはしばらくお互い、若干睨み合っていたが… ほとんど同時に、どちらからともなく、笑った。 「…ぷぷっ」 「…ふふふっ」 「俺、ときどき抜け出して遊び行ってんだわ。だってさーやってらんねーだろ?」 そう言いながら彼は、僕の腕を掴んで立ち上がらせた。 「うん…そーだね、普通の人はね」 「…あれっ」 彼は、僕の様相を見て、ちょっと驚いたようだった。 なにせ、シャツはボロボロはだけていたし…ズボンもクシャクシャだったのだ… 「お前…もしかして、ゲイクラブのやつ?」 「冗談じゃない。違うよ」 「じゃ、もしかして…誰かに無理やり犯られちゃったとか…」 「違うよー」 冗談ぽく訊いてくる彼に、僕も冗談めいた口調で答えた。 そしてズボンのポケットから、さっき貰った3万円を出して彼に見せた。 「無理やりじゃあなくて、お仕事…」 「えっ?」 彼は急に、マジな顔になった。 「ホントに?」 「……うっそー」 「なんだよもうー」 彼は僕の頭を抱え込んで、ポカポカと殴った。  しかしそのとき…僕の身体や顔が、なんだかベタベタしていることに、気付いてしまった。 「…!?…なに…これ…」 僕は彼の手を交わし…少しだけはだけたシャツを、肩にかけ直しながら…下向き加減に言った。 「…嘘じゃない。ホント…」 「…」 彼は、ちょっと気まずい感じになりながら言った。 「…ね、とにかく屋根のある所に行こう。よかったら俺の部屋に来る?1階だから窓から入れるし、個室なんだ」 「…うん」 「よし、決まりっ」 そして彼は僕の肩をポンと叩き…彼の部屋まで連れていった。 彼の部屋は、寮の敷地内でもいちばん奥まった場所にある、個室ばかりの棟の1階だった。 ここには、相当な金持ちが入るんだって、前に雅巳に聞いたことがあった。 「はいどーぞ」 僕らは大きな窓を開け、そこから中に入った。 彼はすぐに、テーブルの上のスタンドのスイッチを入れた。 「あんまり明るくしてると怒られるからね。ま、ゆっくりしてよ。とりあえず、シャワー浴びてきたら?」 「…うん」 「俺は後でいいから、先にどうぞ」 「…ありがとう」 彼に促されるまま、僕は部屋のシャワーを使った。 なんだかもう…いくら身体を洗っても、自分がきれいにならない感じがしたけれど… 「着替え、よかったら、これ使ってね」 彼が、自分のシャツを出してくれた。 僕はバスタオルで身体を拭いてから、それを羽織った。 そして今脱ぎ捨てた自分の服を、くしゃくしゃに丸めた。 「ゴミ箱…どこ?」 「あーそのドアの横…」 「これ、捨てていい?」 「えっ?捨てちゃうの?…ま、いっけどさー」 僕は丸めた服を、ゴミ箱に投げ入れた。 「じゃあ僕も入ってくるけど…まあテキトーにゆっくりしてて」 そう言うと彼は浴室に入っていった。 彼のこの部屋は、雅己と2人の僕らの部屋よりも広かった。 僕らの普通の部屋は、机とベッドがあるだけだが… この部屋には、ソファーのあるちょっとしたリビングぽいコーナーがあった。 テレビとステレオもあった。 これでもやってらんないのか… じゃあ僕ら一体何なんだよなー 僕はソファーにどっかり腰を下ろした。 目の前のテーブルに、煙草が置いてあった… こんなのもありなんか… 僕はそれを1本取って口に咥え…火を探した。 「どーぞ」 いつの間にか出てきた彼が、バスタオル1枚を腰に巻いた姿で立っていた。 彼はライターに火をつけ、僕に差し出した。 「…ありがと」 僕は煙草の先をその火に近づけ…吸い込んだ。 「…ふうーー」 彼も煙草を1本取り…火をつけながら、ソファーにドサッと座った。 「…ふうーさっぱりしたー。あ、そうだ。ビールとか、飲む?」 「えええっ?なんだよなーこの部屋って、ホントにに何でもありなんだねー」 「まあねー」 そう言いながら彼は、部屋の隅の冷蔵庫から、缶ビールを2本取り出した。 「どーぞ」 「…いただきます」 プシュッ。僕らはそれを開け、ぐいっと飲み込んだ。 「はあー何がすごく久しぶりだわー。まさかこんなところで煙草や酒に出会えるとは思ってもみなかった」 「そう…お前さんも相当悪だねー」 「いやいや…僕はあんたみたいに不良じゃない。真面目な一般生徒です」 「…ぷぷっ…今更なに言ってんの」 「ふふふっ」 彼は缶ビールを一気に飲み干し…もう1度冷蔵庫から新しい2本を持ってきた。 「俺、日野律也…お前は?」 「…滝崎郁かおる」 「何年?」 「1年…」 「じゃ俺のが先輩だわ。俺、2年だから」 「あ、そう」 「…ま、いっけどねー」 久しぶりに飲んだビールが、何だか疲れた身体に浸みわたって、だんだん身体が思うように動かなくなってきた。久しぶりの煙草が、更に輪をかけた。 彼…律也もそこそこ酔っていた。 律也の親父は、某大手大企業の社長らしい。 寄付金も相当額であるらしく、彼は少々の校則違反も黙認されているらしい。 僕らは酔っ払いながら、色々な話をした。 「そう、お前…高等部から入ったんだ。じゃあまだあんまり知らないんだねー」 「うん…でも変なクラブがあって、そーゆうヤツがいっぱいいるってことは、分かった!」 「あははは…そうだよなー」 「あんたは?違うの?」 「ばーか。ゲイなんてのは、女にモテないからしょーもなくやってんだろ?俺みたいにカッコいいモテモテ男子はそんなことしなくていいの!」 「くっくっくっ…よく言うよー」 「だってそーだろ?男同士でしたって、気持ち悪いだけだよ」 「くっくっくっ…ホントに?そう思う?」 「男とキスするなんて…考えただけでぞっとするー」 「そっかー。じゃあさ、キスは気持ち悪いかもしれないけど…絶対気持ちいい事だったら…ちょっとやってみてもいいかなって、思わない?」 「えっ…?」 僕はおそらく、相当酔っていたと思う。 全然気を遣わずに話せる律也の前で…何だか妙な気持ちに、なっていた。 「ご馳走に…なりっぱなしじゃ申し訳ないからねー」 「…?」 僕は、ゆっくりソファーから立ち上がり…彼の座っている隣に、そっと腰かけた。 「な…何だよ、何すんだよっ」 「ま、何事も経験てことで…」 そう言って僕は…彼の股間に顔を近づけた。 「お…おいっ」 狼狽える彼の身体を押し戻し… 僕は、彼の腰に巻かれたバスタオルを捲り上げ、彼のモノにくちびるを押し当てた。 「…!」 そしてゆっくり舌を這わせ…それがふっと硬くなるのを確認してから…今度は先から少しずつ…口の中に押し入れていった。 「…んんっ…」 彼は戸惑いながらも…込み上げる快感の波に、やがて身を任せてきた。 僕はそれから、それを口いっぱいに咥え込み…時々舌で突くように刺激しながら愛撫を続けた。 「…んっ…気持ち良い…出して、いいの?」 彼は小刻みに震えながら言った。 「うん…」 そう言って僕は、口の動きを早めた。  「…ん…んんんっ…」 そしてイった彼のモノから出されたものを、僕はそのまま飲み込み…また…先についた雫まで、きれいに舌で拭った。 「はぁ…はぁ…」 息を荒くしながら律也は、僕の髪を撫でた。 僕はゆっくり顔を上げ…彼の目を見てニヤッと笑った。 「…悪くないでしょ?」 「ううん、悪くないどころか…すっげーいい…」 そう言うと彼は、僕の両肩を持って抱き起こし…顔を近づけてきた。 「キスすんのも…もしかしたら悪くないのかも…」 そして彼は、くちびるを重ねてきた。 「…んっ…」 そのまま僕は、彼にソファーに押し倒された…

ともだちにシェアしよう!