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第4話 身体の異常
ベルトルトさんの言葉で俺は今まで見ないようにしていたみんなからの視線を意識した。俺が予想していた軽蔑だとかドン引きだとかはなかった。そのかわり、なんだか視線が熱い。意識し始めただけで全方向からの熱視線を感じた。みんなどうしたのだろう。
「踊ってみればわかるぞ。そうじゃな、全員さっきまではしゃいでいたから随分疲れているじゃろう。回復の舞でも踊ってやったらどうじゃ?」
うん、回復の舞なんて知らない。どうしようか……そう思っていたら、身体にというか頭に未知の情報が流れ込んできた。何やらダンスの振り付けのような物だ。これがひょっとして回復の舞だろうか?異世界転移の特典すごい。
でもなかなか技術が必要そうだけれど……いやいけた。身体が勝手に動いてくれているような気がする。……踊ってみてわかったけれど、振り付けの中には腰を振ったり曲線を見せたりなかなか扇情的な物もある。まあ女の子がやればだけど。こんなの男が踊ったって毒にも薬にもならないだろう。
しかし俺の予想とは裏腹に最初から最後までみんなの視線を強く感じられた。最初はただ好奇心の熱視線だと思っていた。でも踊っていると、全員の目が俺の身体を舐め回すようにみているような気がする。
そんな視線を感じていると、どういうことが自分まで興奮してきた。確実に身体が熱い、何故だかこの舐め回すような目が愛おしく感じる。もっと大胆な動きをと身体が勝手に命令を出した。未知の興奮に混乱している頭が脊髄から出す身体への命令を拒否できる力があるわけなく、俺の動きはもっともっとと激しくなっていった。
「すげぇ〜」
「えっろ……」
どこからかそんな声が聞こえてきた。その声に比例して俺の身体はどんどん火照っていくし、なんだかビクビクしている気がする。それに合わせて動きを大胆にすると、また辺りがおお、とざわついた。嬉しい、一瞬でも思ってしまった自分が愚かだった。頭が、思考が、この熱と視線に流される。
目線だけで身体中を犯されている感触がある。自分がこいつらと同じ男だという感覚が薄くなってきているような気もした。腰を動かしたり曲線を見せびらかすだけでも互いに興奮を高め合っている。身体の芯がムズムズする、観客は男しかいないのに、どうしてこんなにみて欲しいと思うんだろう、見せびらかしたいと思うのだろう。
これではまるで……踊りをしながらシているみたいでは……
俺は踊るのをやめた。頭が一瞬取り戻した冷静さを決して取り逃がさないようにしないと。どうかしていた。男相手に何考えてんだよ、雰囲気に呑まれ過ぎだ。そう言って自分を抑えた。心の中にはまだ踊りたい、自分の官能的な姿をみて欲しい……もっと淫らな動きをしたいとあらぬ事を考えている自分がいて恥ずかしい。
「……どうした?」
「巳陽?」
周りのクラスメイトが俺の名前を呼んで心配してくれる。でもその声色は確かに熱を帯びていて、表情はやけに色っぽかった。そして何より、下半身。全員真剣な顔をしておきながら、その下半身は凶器と化していた。平たくいうと勃起だ、あいつら男の俺のダンス見て勃ってやがる。
俺は回復の舞を踊った、でもそちらの元気が出るのは違うだろう。でも自分も下を見て、薄い布の中にある小さすぎるパンツの膨らみを見て、何も言えなくなった。自分の踊りに興奮するとかないわ。いや、俺の場合どちらかというと周りの視線に……そう思った瞬間頭の回転を無理矢理きった。知らぬが仏とはよく言った物だ。まあこんな局面で使うなんて流石に昔の人でも分からなかったろうけど。
「なあ巳陽、もっと踊ってくれないか?」
「すげえエロ、いやカッコ良かったぜ」
「……てか今自分がどんな顔してんのかわかってんの?」
面識がある人だけじゃなくて今まで話したこともないような奴もゾロゾロと来やがった。俺を除いて39人に囲まれるのは思ったよりも怖かった。でもそれと同時に背中がなんともゾクリとするような、そうじゃないような。
身体はもうビクビクすること以外を忘れたようだ。なんとかと体重を支える足はあと少しで崩れると手に取るようにわかった。なんでだよ、ただ踊っただけだぜ?何でコイツらはそれで興奮してんだ、そして俺は何故そんな視線を気持ちいいと思ってるんだ。
「……なんか言えよ、巳陽」
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