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第18話 お金がいっぱい(白目)
何が何だか分からなかった。俺は言われた通りに宝石を売っていただけだ。気がつけばあたりの市民貴族関係なしに、寄って集られている。
「こんな色っぽい踊り子さん久しぶりだ!」
「是非受け取ってください!」
「か、可愛い!」
全員から降り注がれる熱視線とお金の山。宝石なんて目もくれずに、全員バスケットに紙幣や銅貨に銀貨、金貨もチラホラとあった。山盛りになるのは時間の問題。俺は筋力はあるから両手を使えば持ち上がる。けど、周りはあれだけお金を入れておきながらまだ物足りないようで……
「もう入らねえのか……」
そんな落胆の声が聞こえる。申し訳ないとかは微塵も思わない、早く希望の元へ帰りたいしか考えられなかった。不満が溜まっていると、前方から大きな声が聞こえた。
「なら、踊り子ちゃんの服にねじ込めばいいじゃねえか!」
それはないだろう。おいそこの人の良さようなおじさん、ああ、その手があった!みたいな顔をするんじゃあない。俺の抵抗は所詮焼け石に水。何十人もの男達に囲まれたらあまりにも無力だった。
「踊り子ちゃん、こっち向いて!」
「照れてるのも可愛いよー!」
「こんな可愛い子が何で今まで話題にならなかったんだろう……」
これはあれだ、全員漏れなく魅了されてる感じか?そうでなきゃこんな男を可愛いと思うわけ……ないよな?
そしておいやめろ、服にねじ込むのはやめてくれ。胸元や腰回りのなけなしの布にお金が次々と捩じ込まれていく。怖いし恥ずかしい。しかも発情のせいか頭クラクラする。本格的に身体が熱くなる前に逃げないと、ちょっとヤバいな……退路は無いし……どうしようか。
「ちょーと待った!!」
人混みをかき分けて、1人の男が走ってきた。希望だ。やった、助かった、本気で思った。さらに後ろから来たのは……ドス黒い程の気を纏った仁。怖い怖い。何の罪のない近くの男の子が泣いている、可哀想に。
「ウチの看板娘を虐めないでくれ。こいつは……その……俺たちの彼氏?なんだぜ!」
こいつもこいつで意味分かんねえ。何言ってんだよ。仁がどんどん近づいてくるのが怖すぎる。不良仕込みの悪役顔というより、ヤンキーフェイスが恐怖を物語る。絶対気に入らないやつ2、3人東京湾に沈めている顔だ。
「とにかく!まだまだ新人なんだから、揶揄うのはやめてあげてくれ!じゃあな!」
ひょっこりと持ち上げられたと思えば、無抵抗で俵だき状態になってしまった。全体的に身体が動かないから助かるけど、尻の位置が高いからこれまた恥ずかしい。まあ助けてくれたんだから、文句を言うのは違うよな。真っ直ぐにリアカーに向かうと、光の速度で仁がきた。もう驚いたら負けだ。
「今日は店仕舞い。真田、梓を頼んだ!」
「任せろ。この時のためについていってたからな」
「ストーカーって知ってるか?」
「知らん」
俵抱きの次はお姫様抱っこだ。職業《クラス》のおかげか筋力が上がっているのだろう。それなりの重量があるはずの俺をなんのそのと持ち上げた。俵抱きと違った恥ずかしさがある。しかも身体の上半身を仁の胸に預けるような態勢だから、どうしても匂いが気になってしまう。
淫魔野郎め、俺を匂いに敏感など変態にしやがって。もう嫌だ、泣きたくなってきた。
「大丈夫だ。俺が守るから」
お姫様抱っこをしている手の力が強くなった気がした。背も大きい、声も低い、力も強い、悔しいが俺よりも男らしい。そんな仁に守ると言われて安心してしまうなんて、やはり俺は少しずつおかしくなっている。俺はこれからどうなってしまうのだろう。
……まあいいか。その時のことは、その時の自分に任せよう。後ろから聞こえる市民や貴族の踊り子を呼び止める声を背に、眠るように気を失った。
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