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第28話 朝っぱらから
朝は気怠さと清々しさが共存する。それは異世界であっても同じのようだ。あの後俺たちは風呂に入ろうとしたんだけど、片付けと一緒に風呂にも入れたと仁に言われ、一人で先に眠りについた。周りの悔しそうな顔はきっと気のせいではない。
それぞれの個室で眠りにつくため、俺の部屋で一人で眠るのだが、この部屋を見ると、いやでも仁との事を思い出してしまう。少しムラっときたが、流石に疲れには勝てなかったようで、ベットの中でムズムズしているうちに眠ってしまった。
「おはよう梓。朝飯の時間だぜ」
朝の光を浴びながらぼーっとしていたら、窓の反対側、ドアの方から声が聞こえた。俺のベッドの隣にいたのは時雨高松。うちのクラスで副委員長をしている喜助の右腕だ。筆記試験を首席で入学して、その後も試験を学年一位で通過している学校有数の超がつくほどのガリ勉。
だがずっと成績が2、3番手の喜助に学級委員長の座を奪われている。今度行われるはずだった生徒会選挙でもクラス代表は喜助で、高松は副会長だ。しかしクラスの中にはだれもこの結果に否を挟むものはいなかった。その理由はと言うと、本人を見て貰えばわかりやすい。
「そんな痴女みてえな格好で恥ずかしくねえのかよ、温めてやろうか?」
そうだ、こいつはとてつもない毒舌なんだ。いや違うな、ドSって言った方が正しいかもしれない。今回は心配の感情もあったからマシな方なのだが、いつもはもっとキツい。まさにキレッキレだ。こんな性格の男が学級委員長だの生徒会長だのはちょっとと言うかだいぶ嫌だ。意欲があるのはすぐにでもわかるしいいことだと思うけれど、それとこれとは話が別だと思う。
そんなこいつの職業《クラス》は盗賊。なんというか、持ち前の頭の良さと抜け目のなさ、ちょっと性格が悪いところも全部生かしきれる天職だと思う。本人に失礼極まりないから言わんけど。よ
「どれ、俺がエスコートしてやろうか?男のお姫様」
このドSがここに来たのはみんなに頼まれたからなのか、それとも自主的に来てくれたのかはわからない。後者の確率の方が高いとは思う。でも来てくれて悪い気はしない、男のお姫様というのは少々むず痒いけど。
差し出された手を握った。勝ち誇った顔をされるのかと思いきや、少し不服そうな顔をしている。やば、ちょっと図々しい事したかも。
「ごめん……やっぱ一人で歩く」
「そうじゃねえよ……」
高松は俺の手をぎゅっと握って離さない。それ以外の原因とはなんだろう思い当たらずに手をこまねいていると、いきなりずいっと近くに寄ってきた。離れる為に後ろに脚をおこうとするも、そこはベットという先客がいた。高松は何もいう事なくただ俺を見上げるばかりで……あ。
「……ようやくわかったか?」
「うん。なんか、ごめんなさい」
申し訳程度に屈んで見せた。身長ぐらい気にしないのに、これに関しては俺が鈍感なのか、それとも高松が気難しいのかはわからなかった。ただ今一つ言えるのは、恥ずかしいから離れて欲しいということだけだ。屈んだ俺をまじまじと見て、これまた機嫌が悪そうだ。
「気に入らねえ……」
雌のくせに、そう聞こえたのは多分気のせいじゃない。心の中、奥の方でドキンと音がなった。固まって動けない俺は、そのままベットに押し倒された。
「ちょ、待て待て!」
流石に朝からは駄目だろ、溜まった思考がようやく回復する。しかしもう遅い。人間とは思えないスピードで左腕と胸元を隠す布の後ろ側を掴まれた。取り押さえられている形になった。このスピードはあれだ、盗賊の恩恵だろう。
「鏡見てみろよ、自分がどんなんかわかってんのか?」
ベットの横にある化粧台のような机の上にある大きな鏡。そこにはあられもない姿で捉えられている俺がいた。スケスケの服に産毛すらも生えていない透明な肌、自分でも俺ってこんな顔出来んのかと疑うほどのいやらしい顔。エロい、自分でも思ってしまった。こんなの恥ずかしすぎる、仁とやってるときも無意識にしていたのかもしれないと思うと余計恥ずかしい。
耳を塞ごうににも片耳しか塞げない、言葉の責めが聞こえてしまう。目を瞑っても手足の鈴の音が聞こえて、俺の事に意識が向いてしまい意味をなさない。
「お前は雌だから知らんだろうが雄ってのはな、お前みたいなエロい雌ほっとかねえんだよ。すぐにでも手を出して、手駒にして、自分色に染めたくなるもんだよ」
そんな事ない、俺だって男だと反抗したい。しかしこの忌々しいほどの発情体質な身体は、すでに熱を持ち始めていた。
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