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第40話 平和からの
「やれやれ、まさか全員風呂場にいるとは。お前達の世界で言うと灯台下暗じゃったな」
「ご迷惑をおかけしてすみません……」
あの後俺たちを探していたベルトルトさんが俺たちを見つけて、魔法によって無理矢理乱闘を鎮めた。朝食の時間になっても全員来なくて、使用人や兵士達に城下町を探させていたらしい。申し訳ない。流石の俺たちも全員ごめんなさいと頭を下げて、大人しく食事処へ向かった。でもベルトルトさんは怒ることもなく、
「朝食のつもりが昼食になってしまったな」
と笑うばかりだった。時刻は丁度午後1時を回っている、意識した途端に腹が空いて仕方がなかった。全員でテーブルを囲むのもなかなか楽しくなってきた、でも隣は当たり前のように仁だから、それには周りが不満をこぼしていた。左隣にリーさんがいるのだけど、俺たちを見てまたもや嬉しそうだった。
話している間にも、食事が配られる。グルーデンの食事は甘い味が中心だけど、不思議と飽きないのだ。甘さが上品で旨味もあるからだと思う。
「では諸君、頂こう」
「せーの」
「「「いただきます!!!」」」
ベルトルトさんと喜助の合図で、部屋中にいただきますが響いた。みんな動き回った上、朝何も食べていないから腹が空いている。俺も例外じゃあなかった。特に俺は昨日の朝から本当に何も食べていないからな、空腹とかそう言う次元じゃない。
パンや卵が中心だった朝飯とは違って、肉がメインのガッツリ系だった。目の前には、一人一人に野菜のスープや、デザートが並んでいる。中心には昨日の朝のように、いや朝よりももっとたくさんの肉料理が並べられている。
「うっま〜!!」
「ほら、口元汚が汚れてるよ」
近くにいた健吾がスペアリブを美味しそうに平らげている。蓮舫や瀬戸未来こと未来が、すっかり汚れてしまった顔を拭いてあげている。そんなに美味しいのか、ちょっと気になるな。
みんな思い思いに食事を楽しんでいる、俺も早く手をつけてしまおう。こう見えてお肉は大好きだ。やっぱし牛、いや豚肉も鶏肉も好きだな。結局俺も健吾が食べていたのが気になって、手前のスペアリブの煮込みを皿に取った。十分に下準備がされていて骨はない。もうスペアリブでなはない気がするが、形はちゃんと保っている。
しっかりと煮込まれた骨なしバラ肉は、口に運ぶだけでじゅわりととろける。甘辛く味付けされ、肉本来の旨味も潤沢に残っているお陰で、美味しさのダブルパンチだ。どうしてお肉にはこんなに甘辛いのが合うのだろう。どうして旨みとはこんなにも俺の心を掴んで離さないのだろう。
「ス、スイーツが少ない……」
肉メインでお菓子が少ないせいか、呆然としている仁を尻目に、この旨みを堪能する事にした。ゆっくり味わいたいが、そうこうしていたらあっという間に取られてしまう。よし、一度にたくさん取る事にした。俺も空腹だったんだ。食べ過ぎと思われるぐらいが丁度いいだろう。
結局俺は、テーブルに乗っていた肉料理全種類と、手前にあった野菜スープとデザートを見事に平らげた。やっぱし踊り子だろうが淫魔だろうが腹は減るもんだな。
「「「ご馳走様でした!!!」」」
今回もまたもや完食。まあ朝飯が抜きで、しかも育ち盛りがこんなにいたらこんな量はペロリだな。ベルトルトさん曰く、明日の夜には例の最終兵器船の設計図の最終確認が取れて、コグエに行けるようだ。
それからと言うもの、俺はものすごく平和に過ごすことができた。いやもうほんとに平和。むしろ今までが数奇過ぎたのだろう。これが普通のクラスメイトと異世界した時のノリなんだと思い出した。具体的には喜助や未来、総司とトランプをしているだけだったけど、それだけで幸せを噛み締めることができたのだ。喜助は賭け事向きの性格をしていなくて、総司は意外と勝負運がない。そして未来が意外に勝負師だと言うことがわかった。
そして夜、事件は起きた。
「おい、ちょっと付き合えや」
「嫌だ」
「待てや」
本日2回目の風呂にも入って落ち着いてきた頃。みんなが謎の気遣いを見せて俺一人で風呂に入る事になった。他のみんなは出席番号で前半後半に分かれて入ら事にしたらしく、今は後半の人たちが入っている。
何はともあれあの大浴場を一人で独占できて、俺の肉体精神ともに疲労はかなりなくなった。それなのに、いざ寝ようと俺の部屋のベットを開くと、そこには仁がいた。いつの間に。確かに仁は前半組だったから、今ここにいても何もおかしいことではない。でも聞きたいのはそう言う時刻表的な事じゃない。倫理の話だ。
「来いや」
「お前が出て行けや」
「なんでだよ」
「ここ俺の部屋なんだけど」
話の平行線の使い方が今わかった。こういった時は、どちらかが強硬手段に出ないと解決しない。そして勿論と言ってはなんだが、
「ほら、舌噛むなよ」
「え?__!?」
行動に出たのは仁だった。まあ俺が行動に出たところで完封されるのがオチだから、当然の話だ。結局俺は引きずられる形でベットの上に倒れ込んだ。流石に痛みはなかったが、仁に見下ろされるように見られていて少しドキッとした。やっぱ俺って、いっぱい求愛されてるけど、みんなに好きだって言われてるけど、仁が好きなんかな……?
「オラ服脱げ。高松に触られたとこ見せてみろ」
「……ヤキモチ焼き」
「うっせ」
まだ夜の9時ぐらいなのに、電気だってついているのに、そんなのお構いなしだった。仁の手が、俺に伸びていく。
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