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第41話 キスマーク

仁はわざと乱暴にしているのだろう。服を脱がされた時、ちょっとだけ痛かった。力任せに持ち上げられたと思えば、昼間のように体をペタペタ触りだした。昼間とは違って服も着ていないし、雰囲気もあって少しだけ恥ずかしかった。 「背中は大丈夫、首元も……平気か」 俺が自分で見えない場所をじっとみている、そんなに高松が信用ならないのか。冷静に考えれば、クラスメイトの男の部屋に上がり込んだ挙句、プチ調教を施したんだから確かにわからんでもないけど。 「お前はもっと自分が可愛いことと、その、オレの恋人だってことを自覚しろ」 そうだった。いつの間にか、俺とこいつは付き合っている事になってるらしい。確かに告白は何度も受けけど、返事をした覚えはない。やる事やってる時に弾みで言ってしまったのか……? 「告白して、セックスもした。誰がどう見ても付き合ってるってのに、高松のやつ……」 …………ん?いや、その、ごめん。多分だけど、それはきっと付き合ってるとは言わないと思う。とにかく意識してない間に無責任なこと言ったのかと心配していたが、それは不要なものだったようだ。俺を正面から抱きしめ直した仁の心臓の音を聞きながら、1人で考えていた。 「元の世界に帰ったら、お互いの家族にちゃんと伝えような。オレたち結婚するって」 まてまて、だいぶ段階すっ飛ばしたな。そもそも不良のくせにそう言うのは大事にすんのね。そっちの家族は分からんけど、俺ん家は戦慄しそうだな。母さんと父さんはともかく、婆ちゃんは最近心臓が弱くなってる。それに弟は……あいつは大丈夫そうだな、反抗期だし、不用心で警戒心のない兄貴がいなくなってせいせいする事だろう。 兎に角、家族に報告はいくらなんでも恥ずかしい。俺長男だぞ、一家の長男が結婚相手で男連れてくるのはヤバすぎるだろう。しかも俺旦那じゃないから、貰われる方だから。 「はー……梓、好きだ……」 考えだけが先行してなかなか行動に移せない俺を、さらに強く抱きしめた。それでも痛くない、本当に大切な人間を守る抱きしめ方。優しい声で好きだと言われれば、ついついその気になってしまう。クラスのみんなが、仁のこんな姿を見たら、動転すること間違いなしだ。そのまま何もしてこない様子に俺の方が我慢できなくなってしまった、仁の服を強く引っ張る。 「……脱げよ」 「自分だけ裸なのが寂しいのか?」 ちげーよ、こら勝ち誇った顔をすんな。これはあれだ、自分だけ脱がせられたらが悔しいだろう! 胸の奥にあるなんとも言えない寂しく感情を、そう言ったものと定義した。 しかし仁ときたら、そんな俺の主張を聞き流しやがった。嬉しそうに自分の来ている和服を手に掛けている。悔しい、やっぱこいつちょっとだけ真面目なだけで十分たち悪い。ちゃんと着付けられたサムライの和服が、大切なその紐が、するりするりと解けていくのがなんとなく官能的に感じた。こいつの鍛え上げられた筋肉を見るのは初めてではないはずなのに、いつまでも鳴り止まない胸のドキドキを1人で感じていた。 「どうした、そんなに目の前の恋人がかっこいいか?」 揶揄うような口調に思わずムッとしたが、半分正解なだけに言い返す言葉が浮かばない。かっこよかったし、ちょっとエロいとも思った。ただ俺みたいななんていうか、いやらしい感じとはちょっと違う。本当にかっこいいし、悔しいけど俺よりずっと雄っぽい。 和服というのはキッチリして見えるが、男物は意外に脱ぎやすいらしい。ぼーっと見ているとあっという間に俺と同じく一糸纏わない姿になった。 「痛かったらすぐ言えよ」 「ん?…………んん、っふぅ!」 再び前から抱きしめられて、すっかり油断していた。仁の言葉に戯言のように返事をしていたら、急に胸元に刺激が走った。 痛いものじゃない、確かにチクリとはしたが あくまでも甘いものだった。なんて言うんだけっな、確か甘噛みだった、と思う。 「イ、ふぅ、やめって……」 仁の胸の中でもがいていた。それぐらいでは抵抗にもならないと分かっている。でもこれ以上自分が淫らにならないように、これ以上変態に見られないように、せめてもの抵抗だった。 暫くしてようやく離してももらえた。すっかり真っ赤になっているだろう息切れた俺を満足そうに見下ろしている、そんなSっぽい視線に身体がゾクゾクとした。やっぱり俺はドMになっちまったのかもと本気で考え始める。 「ほら、綺麗についたな」 息も絶え絶えのなか、胸元を見る。一見虫刺されのように見えなくもない赤い点。白い肌に恥ずかしいぐらい目立っている赤いそれは、俗に言うキスマークというやつだ。恥ずかしくて胸元を隠そうとするが、こらと手を押さえつけられた。 「まだ疲れてんじゃねえぞ。もうちょっと付き合えや」 今になってまたそんな質問。俺が選べる答えが一つしかない、選択肢がひとつしかない、そういうのを質問とは言わないか。目の前、俺を愛おしそうに見下ろす俺の恋人を、見上げた。 「……痛くしないでくれよ」 「勿論だとも。ただ他の男が触れたところを治すだけだ」 「独占欲って言葉知ってるか?」 「知らねえ」 俺の自称恋人? は随分と嫉妬深いようだ。そんなこいつは手を伸ばして抱きしめる。 「どこ触られた、言ってみろ」 「……ちんこ」 「……マジか」 俺の前での初めてを奪えなかったのがよほどショックだったようで、唖然としていた。しかし、暫くしたらそんなものくれてやると軽く笑われる。しかし、仁の手は迷うことなく俺のそれを掴もうとしている。

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