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第44話 これも言葉責め

仁は俺が痛くないように優しく体を押さえつけている、対する俺は殴るような勢いで暴れていた。それでも勝てない自分と言ったらなんと哀れなことか。暴れる俺を平気な顔して抱きしめている、愛おしむ顔を隠しきれていないというか隠す気も無いのだろう。 この体位では動けば動くほど自らの急所を抉ってしまうから、正直言ってあんまり暴れたくない。実際に仁に頭を撫でなれたら、自然と動きが止まってしまったのが少しだけ悔しかった。そのままの状態で、まるでそれが普通かのように、話は進んでいった。 「まずはこの目だ、この発情した体と顔にピッタリな目が好きだ」 鏡に写っている俺の眼は、確かにいかにも発情してますって目で仁を誘っていた。目を固く瞑ったら困ったように、コラと言われてしまった。 「次、この白い腕が好きだ。お前筋肉があるけど意外に柔らかいんだよな。ほらみろ、この二の腕すげえエロい」 俺の左腕を上げて、日焼けしていない二の腕が露わになる。男の二の腕エロいっておかしいとは思ったが、もう人のことを言える立場ではないと口には出さなかった。 それからしばらく、仁による褒めちぎりは続いた。脚が好きだ性格が好きだはまだいい、恥ずかしいけどまあ嬉しいからな。ただ脇が好きとか匂いが好きとかはちょっと変態っぽくて引いた。すぐに反応してくれる前立腺が好きって言われた時は、素直にどうしようかと思った。高松の辱めながらではなく、変態ながらもシンプルな褒め言葉は、違った意味での言葉責めだった。 「好きだ、梓」 「わかった、わかったから!」 俺の方が耐えられない。恥ずかしすぎて沸騰しそうな身体で、仁を押し返すように手を突き出した。一瞬焦ったような顔でムッとはされたけど、すぐに可愛いなモードに戻ってしまう。こうしてみると、本当に魅了とかじゃなくて、本気で恋をしているのだなと思った。 でも言葉責めはやめてほしい。悪気がないのは百も承知だが、褒められ責めを受ける方が恥ずかしい。我儘かもしれないが、わかって欲しいと必死に伝えた。恥ずかしいなら仕方がないと辞めてはくれたのだが…… 「そうか、恥ずかしがり屋か……」 こいつ絶対内心で可愛いって思ってる。俺のことを思ってくれているのか、口には出さないけど顔でわかる、もっと言うと顔にそう書いてある。 そしてもう一つ、俺には不安因子があった。 「な、なあさ……」 「ん?」 「なんで、デカくなってんの……?」 そうだ、こいつのソレがデカくなってる。中に入ってんだからいやでもわかった。これ以上このままだと正気を保たないから、少し焦り気味で聞いてしまった。 「なにが」 「ナニが」 こいつわざと恍けてんのかと思ったけど、顔がマジだから、本当にわからなかったんだと戦慄してしまった。 「ああ、すまん。ついつい可愛くて……」 「理由になってねえ」 いきなりで悪いが、現実世界にいたときの話をしたい。俺はずっとこいつから距離をとっていた。普通不良に好き好んで近づく奴は早々居ないだろう。まあ恐れ知らずな健吾やどんな奴にも面倒見の良い喜助、元からつるんでいた譲治こと二家本譲治みたいな話す奴らはいたが、まあ大体のクラスメイトは話すことがなかったと思う。 流石に堅気の同級生相手での暴力沙汰はなかった。しかし喧嘩の相手を必要以上に殴ったり、一年の時は暴力団と繋がってる暴走族を一つ壊滅させていた。バイクの音がうるさくて家族が不眠症になったからやったってのは風の噂で聞いたことがある。動機はかっこいいと思う、斜め上とはいえ孝行息子って感じだ。でも暴れすぎだ、未だ病院から出て来れねえ奴もいるらしいからな。 そんな奴が今はこれだからな。一人の男の痴態をみて勃起してやがる。うまく言えないけど、野生の熊とかライオンとかに好かれた人間ってこんな気分なんだなとは思った。 「あともうちょっと頑張ってな」 頬に口付けをされた。やはり少し恥ずかしい。でもまあ、仁だから良いかと思う自分も現れ始めていた。腰をがっと掴まれても不思議と怖くはなかった。嫌悪感はもちろん、恐怖も一欠片もないとは、自分もすっかり絆されたものだな。 「ふ、ふぁ、気持ち……いい……」 強い律動をされても、感じるのは快感と幸福だけだ。この調子じゃ俺たち、仁の言った通り本当に結婚するんかな? ……ソレも、まあ良いか。 仁の動きに合わせて声を出すのに、気持ちいいのを感じるのに夢中で気付かなかった。お互いに夢中だったのだろう、二人揃って気配すら感じることできなかった。 端的にいうと、人が入ってきた。 ドアのバンという音で俺たちはハッとした。あの重々しいドアが空いたら、今こと状況で開いたら、正気にならざるおえないだろう。 「梓、大変だ! 国王様から頼みがあるって……何やってるの?」 ああ可哀想に、お前だけにはみられたくなかった。俺たちは呆気にとられた。弟みたいに思ってたのに、今度からは距離を置かれちゃうかもな。 ……ドアから入ってきた健吾は、俺たちをまっすぐにみていた。

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