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第68話 うちのヒーラーは個性的

木造の高級感あふれるいかにも王国の船って感じのそれは、梯子を登っている時に鮮やかに港から離れるようにカーブして、甲板に着く頃には海を切るようにして前進していた。 「お疲れ様だ、本当によくやった」 逃げるように港町を離れた俺たちは、先に船に乗っていた魔法組に取り囲まれる。そして怪我がないかなどの看病を受けることとなった。俺は怪我なんてない、至って健康だ。強いて言うなら明日は筋肉痛と原因が明白な腰痛で悩まされるぐらいだろう。しかし、周りはそうはいかなかったようで、 「見た目の外傷は少ないが……想像通り全員たんこぶ多いな」 「必要な犠牲だった」 全員漏れなくたんこぶが付いていたようだ。あの時は原因はわからず一人であーだこーだ考えていた、欲情した時に殴ればいいと言う大河提案を思い出したのは、もう少し後の話だ。その中でも特に仁の怪我は群を抜いて強烈なようで、僧侶の未来だけでなく薬師の錦織清志までそこにはいた。 「たんこぶ3つにあと……かなり無茶をしたな? こんなに怪我が多いとは。おら医務室にこい、ついでに飯も食って寝ろ」 「お節介すんな、俺はテメェの弟じゃあねえよ」 そうだな、どちらかと言うと今のは母親と息子って感じだ。 錦織清志。お前は将来保育士でも目指すのかと言いたいぐらいには面倒見がいい。俺も何度か助けてもらったことがある。流石に仁に話しかけられるほどの度胸はなかったみたいだが、この異世界に来てからは話が別のよう。むしろ今までが小手調というぐらいのパワーで嫌がる仁を医務室まで引っ張っている。想像以上に強かだ、今までは俺と同じ日陰ものだと思ってた。 「なに突っ立ったんだ、仁だけじゃねえぜ。全員医務室だ! おらおら医療ヤクザのお通りだ!」 「ヤクザかどうかはともかくとして、一人ずつ俺たちがちゃんと治療するから、もう大丈夫だよ」 怪我だけじゃなくご飯も寝床も準備してくれるお節介魔神薬師清志と、治療と言いながら患者をぶん殴る医療ヤクザ(白魔術師)の大河、そして大人しいのに毒舌なもんだから逆に一番おっかなそうに見える未来。個性豊かなヒーラー達に連行されていった。 ♢ 「というわけで、真田はコグエに着くまでとにかく安静にすること!」 「へいへい……」 ようやく医務室から解放された湿布みたいなのを何枚も貼られた俺はまだマシな方だと周りを見て思った。それにしても流石は勇者だ、たんこぶのような外傷は勿論その他の細かい怪我なんかも易々と治している。それでも怪我がぶり返すことを心配して安静にするようにと言われたみたいで、仁はいろんな意味で疲れていた。そんな中、俺はある疑問を持つ。 「なあさ、この船って誰が操縦してんの?」 そうこれだ。甲板にも医務室にも乗務員らしき人は一人もいない。操縦室にいるのか、それとも異世界だからひょっとして全自動とかも考えられる…… 「操縦ならグルーデンにいるベルトルトさんが遠隔でしてるよ」 「何それすごい」 事前に知っている様子の喜助から平然と教えられたが、それだけでも少し感動してしまった。やっぱ魔法の世界って凄いな、今度俺もなんか魔法教えてもらいたい。元の世界に戻っても使えるかはまた別にして。 「コグエに行くのには何も問題はないよ。ただそれ以外に決めなくてはならないことがいくつかあってだな」 喜助は全員が無事にロビーに集まったタイミングで紙を取り出した。その紙の上らへんには大きな文字で、「役割分担票」と書かれていた。料理や掃除、洗濯などなどの文字も目に入った。 「これから俺たちはこの船で約10日間ほどの共同生活を行う。それに伴って、この日は誰が料理する、誰が掃除するといった役割分体を決めたいんだ」 なるほどそうきたか。たしかにそういうの事前に決めとかないと間違いなく喧嘩になるのが2年B組だからな。喜助が出した提案は至って簡単。AチームからEチームの計5つに分かれてその日にによって、料理に掃除、洗濯、そして夜回り、最後に休暇と分けて行う。十日間で5チームだと二周できるって算段だ。 「というわけで8人1組になって欲しいんだけど……」 「はいはい!俺梓と一緒がいいです!」 「僕も一緒がいい!」 「おいテメェら舐めとんのか」 「そう、絶対にこうなると思っていたよ」 頭を抱えていた、俺も頭を抱えそうだった。嬉しいような、それでも恥ずかしいような感情がせめぎ合っているが、何より今は喜助に同情した。 しかしどこまでも有能な学級委員長喜助は公平かつ恨みっこなしな手段、その名もくじ引きを準備していた。全員がカイジみたいに確率は五分の一……ザワザワ……みたいな雰囲気で、逆に俺が疎外感を感じてしまった。勿論結果は阿鼻叫喚だったが、また班替えを行うと言うと、またザワザワし始めた。

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