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第74話 安心できるわけがない
「……ふーん、逆レイプかー」
「さらっと言わんでくれ」
軽蔑するわけでもなければ引くこともない、ただただ事実を受け入れてくれた晴雄をありがたく思った。相変わらず無遠慮なのはあえて文句は言わない。しかしここまで余裕ぶっこいてると、逆になんだか心配になってしまう。
「つまりはこの事を隠し通せばいいんだな、この事実を知る人間の記憶を抜き取ればいいんだな?」
「こっわ!」
「嘘嘘冗談、一緒に謝ってやるよ」
やっぱりこいつはやばい奴だ。記憶抜き取るとか本来はできないはずなのに、晴雄ならできる気がして、考えると身震いした。宇宙人から未知なる技術を伝授されてそうでちょっと怖い。
「まずは健吾を風呂に入れたいんだな。いいぞ、手伝ってやる」
なんだかんだお人好しで調子が狂ってしまうものの、その善意に感謝して風呂場へ向かった。途中でどんな風に逆レしたのかとか、そんな際どいこと聞かれた時は流石に恥ずかしかったけど。
♢
風呂場は脱衣所も含めて思ったよりも大きくて、とても船の中にあるものとは思えなかった。湯船は20人ぐらいだったら一緒に入れそうなほど大きくて、シャワーも問題なくたくさんついている。流石に王宮の風呂には敵わないけど、俺みたいな庶民にとっては十分すぎるぐらい豪華だった。
「大きいな〜これだけ大きければ泳いでも怒られないよな」
「泳ぐな」
「こんなに大きいのに!?」
「なんで大きい=泳ぐになってんだよ!」
なんだかんだいい奴な晴雄のお陰で、すっかり安心してしまい、面白くもないボケツッコミを繰り返してしまった。ドロドロな健吾はまずシャワーで綺麗にしてやる。シャワーから出るお湯があったかいことを確認して、手足から少しずつ洗ってやると、ようやく目を覚ました。
「んー……ひえ、梓……」
「そんなビビんな、俺が悪かったから」
逆レイプされた相手を見て驚くなとは中々の無茶振りだと理解しているが、それでもダメ元で謝った。健吾は混乱こそしていたが、怒ってはいなようで、身体を洗う俺に対してありがとうとほざいている。そんなんだから付け込まれるんだよ、俺みたいな悪い奴に。
「あ! 健吾起きたのか?」
手伝うと言っておきながら大きい風呂に魅入られて、そのまま海に帰った人形みたいに泳ぎ始めた晴雄が健吾に気付いたようで、ようやく陸に帰ってきた。
どうやら健吾と晴雄は仲がいいらしく、俺に洗われてる最中でも、嬉しそうにぴょこぴょこと動きをとっている。
「晴雄だ! 泳いでたの、いいなー」
「お前も泳ごーぜ!」
「わかった!」
「健吾お前もあっち側の人間かよ」
風呂場で泳ぐ奴の神経が理解できないのは、俺が泳ぎが下手くそだからなのか、それともこいつらがぶっ飛びすぎてるせいなのか。昔から泳ぐのが自転車に乗るのと同じぐらい下手だ、だるまうきが限度なんだ。まあせっかくだから俺も風呂に入らせてもらう事にした。入るだけだ、泳いだわけではないぞ。
しばらく奥で遊んでいる二人を見ながらぼーっとした。こんな風に一人でリラックスするのはなんだか久しぶりに思える。思えば俺は異世界に来てから常に誰かと共にいたな。今までちょっと目をやれば晴雄と健吾がいるけども、それでも今までに比べればずっと一人な感じがする。ほら、ちょうど晴雄達の声が聞こえなくなって……って、あいつら溺れてない?
「ちょ、馬鹿野郎!待ってろ!」
何度確認しても風呂から顔を上げない2人を見て確信した、あいつら泳いでねえ、浮いてやがる。こんな短時間で溺れんなよとは思ったが、悪態をつく前に今は助けることだけを考えた。しかし、それは罠って奴だった。二人に近づいた瞬間腕を掴まれた俺は、そのまま近くの座れそうな場所まで引っ張られた。
♢
「ありがと梓!」
「溺れる真似作戦大成功!」
……どうやら2人は俺を驚かそうとしていたらしい。つまり溺れてんのもふりってことだ。騙された気分にはなったが、そもそも俺じゃないんだからそんな簡単に覚えないとすぐに考え直した。
「で、俺をわざわざ捕まえてどうするつもりだよ」
「それはね〜……どうしてなの?」
健吾お前知らずにやったんかとツッコミを入れた。晴雄の策であることが分かったが、その晴雄はと言うと、何故か俺だけじゃなくて健吾の腕前強く掴んだ。健吾はびっくりして俺を掴んでいた手を離してしまった。
「なあさ、ずっと気になってたんだけど。お前らってどんな風にセックスしたの?」
そこには全く悪意を感じない、ただただ好奇心の赴くまま質問しましたって顔をした電波な不思議くんがいた。
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