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第73話 反省とかいうレベルではない
…………
「……やっちまった」
時が経ち、俺はさっきケツでだき潰してしまった健吾の隣で頭を抱えた。ベットを健吾に独占されてるからただ俯いて後悔することしかできない、そしてその健吾はというと、汗やら体液やらでびちょびちょだ。俺のケツは健吾の精子が静止で蓋をされたミルフィーユみたいになっている。
汚いUSJ状態なのは可哀想だから早くお風呂に入れてあげたいけど、今外に出ると外回りしているやつにバレてしまう。興奮したまま健吾の精子搾り取ってしまい、そしたら失神してしまった。そんな事言ったらこれこそ末代までの恥になってしまう。実際にやってしまった上に、健吾のその後の行動によっては隠しても意味がないからわざわざ知らんぷりするほうが見苦しいのかもしれない。
「ごめんよ、健吾」
腹を括った。隠すのも罪悪感が拭えない、むしろ自分がムラムラしたからとかいう理由で逆レイプするようなやつだとバレたら、みんなドン引いて俺のこと諦めてくれるのではとすら思えるぐらいに余裕を持つ。いや持っているように見せる。
何はともあれ、このままでは可哀想だと意識を風呂に向ける。俺は汚れないようにと遠くに投げた仁の上着を、健吾はまだ綺麗だと確認したタオルケットを巻いてあげる。持ち上げるときに、聞こえないかもしれないが謝罪を一言いう。自分の自己満足だけれど、言わないよりかはマシだと正当化することにした。
「う、あずさ、ごめんなさい……ゆるしてよぉ……」
「え?……なんだ寝言かよ」
一瞬だけ背筋がギュッとなるほど驚いたが、これはただの寝言だった、しかも寝ながら過呼吸起こしてやがる。すると今度は心がギュッとなった。逆レイプしてる時は気持ちいいことに頭支配されていただけで、別に意識がなかったわけではないむしろ覚醒状態という表現の方が正しいほど。つまり俺は健吾の許しを乞う声も、助けを求める声も、恐怖のあまり拒絶する声も、全部全部聞こえていたもんでな。
ごめんさないも許しても、もう何度も聞いたはずなのに、なぜかあの時の俺はそれを聞き入れなかったんだ。俺は自分のしでかした事に今までにないほど後悔している、しかしそれは自分がド変態になった事を憂いているわけではない。目が真っ赤に腫れるまで泣かせてしまった事、苦しい思いをさせてしまったことによる後悔、所謂罪悪感というものに一番近い後悔だった。
「大丈夫だ。俺も、お前も、な……」
腕に抱けるほど小さなクラスメイトをしばらく宥めていたら、過呼吸は次第に治っていった。結構長くなると思っていたのだが、強いんだな。小さな背中を撫でるたび、まるでうなされるように苦しむ健吾に胸を痛めた。もう大丈夫だ、なんの薬にもならないと分かってはいたがそう言い続けた、すると次第に少しずつ涙は引っ込んでいく。気を失っていても素直なのは本当に長所なんだろうな。
落ち着いたと判断させてもらい、背中に背負うおんぶの体勢になった。弟を昔おんぶしてあげたからそこら辺は慣れている。寝ているせいか想像してたよりも少し重くて、それもまた年齢より幼くて可愛いと思う。俺はひょっとしたらマゾヒストだけではなく、ショタコンの才能まであるのかも。嬉しくねえ、全然嬉しくれえわ。ていうか何してんだ、いらんこと考えてないで早く風呂場に行くぞ、俺。
♢
揺れる船の感触を伝える足で、ゆっくりと歩いていた。なるべく物音を立てないように、身体を休めている健吾を起こさないように。どうせ後で風呂入るときに目を開けてもらうが、それまではギリギリまで寝させてやろうと考えた。ケツの精子が出ないようにと焦っている自分をそんな事で鎮めていた。風呂があるなんて豪華な船だなと少しだけ考えていると後ろから声が聞こえた。
「あれ? 梓どうしたの」
部屋から出てまだ全然立っていないのに、早くも見つかってしまった。しかもよりにもよってこいつかよ、晴雄かよ。長谷部晴雄、こいつの性格に関しては何から説明したらいいんか分からないから、実際に見てもらった方が早いと思う。
「健吾おんぶしてる、ひょっとして……倒れてるところを拾った?」
「なんでだよ」
この時点で雲行きが怪しいが、ひとまずもうしばらくは聞いてほしい。
「健吾って空飛んでる感じする」
「それは分からんでもない」
「宇宙から飛来してさ、空パカパカ飛んでるところを隕石で狙撃されて道端で倒れてそうじゃん」
「ごめん何言ってんのか分からない」
めちゃくちゃ淡白に説明すると、こいつは性格のいい電波だ。お前の発想が宇宙から飛来してきたと言いたいぐらいには全てがぶっ飛んでいる。だいたいパカパカ飛ぶな、健吾は馬じゃないんだからせめてプカプカでいいと思う。
しかしこのタイミングで晴雄はむしろ幸運かもしれない。さっきも言ったようにこいつは性格だけはいい、俺の罪をぶちまける最初の人としてはちょうどハードルも低い。電波な要素が吉とでるか凶とでるかは置いといて、とにかく運が良かったと思おう。
「なあ俺最低なことした……」
「ん? ま、まさか……隕石で狙撃したの、梓なの?」
「ちげーよ! あとさっきから思ってたけど隕石で狙撃ってどんな状況を想定してんだ」
ぐだぐだなまま、俺の罪状を述べつつ2人でゆっくりと風呂場へ向かった。
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