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第83話 新しい衣装

時間を忘れて恋人ごっこをする……いや失礼、腰痛の闘い続けてはや次の日。安静にしていたおかげか、勇者パワーか、個性的なヒーラー達の荒治療が功を奏したのかは不明だが、容体はだいぶ良くなった。料理ぐらいなら余裕で出来る。 しかしこれはあくまで身体的障害がなくなっただけで、それ以外の問題は解決していない。むしろ最後に残ったこれこそが、1番の問題点と言っても過言ではなかった。 「俺の上着着てけや」 「流石にこれ以上は悪いって……」 そう、服がない。ショーステージに服を置き忘れた。というよりゴタゴタしてる間に魔王にぶん取られた。あの野郎。すぐにでも服返せと魔王城までいって詰め寄りたいが、欲を言えばあいつの不気味なまでに整った顔は、しばらく見たくない。思い出すだけでも寒気がするからここは話を逸らさせてもらう。大体無くなった理由を知ってどうする、そんな事をしても服は出てこん。 イチャイチャの度が過ぎて、途中で上半身半裸になった仁と全裸の俺で代わりになる服を探すが、そもそも新しい服がない。失態だ、あの時の俺はポールダンスを上手く踊れるかだけを考えて、服なんかには見向きもしてなかった。この船で全裸でいるほどの度胸は俺にはない、布でもなんでもいいからとにかく隠せるものが欲しかった。言っておくが度が過ぎたというのは致したとかそういう意味ではないからな、あくまでイチャイチャだ。 「失礼するぜ!」 「御免くださーい」 慌てふためく俺と仁の元へやって来たのは、明治成と夢野幸一だ。本来なら相容れないオタクとパリピの2人だが、今は意気投合して満面の笑みで部屋に入って来た。ノックしろとは少し思ったが、これから先の怒涛の展開にそんな考えは及ばなくなる。 「梓全裸なんだろ? いい服を持ってきたぜって……なんで真田もいるんだよ」 「これはあれです、僕たちはお邪魔だったというあれですね」 違う。違うんだ。俺たちは別に何もしていない、イチャイチャしてただけだから。恋人ごっこしただけだよ。ほらそこ仁、嬉しそうな顔してんじゃねえ。恥ずかしがるふりして嬉しそうな顔隠してんじゃねえ、相変わらず表情筋が素直だな。 「んー……悔しいがまあいいか。これからのこと考えたらプラマイゼロって奴だな」 幸一が何を言ってるのかはわからない。一体これから俺は何をしなければならないんだ。検討どころか目星もつかないまま、話はどんどん加速していく。 「服がないと不便でしょう? 僕が特別に服を拵えました。サイズが合うと良いのですが……」 服はありがたい、赤魔術師ってのは魔物と戦う以外にもそんなことができるのか。羨ましい、俺もそんなふうに異世界で魔法使ってみたかった。ある意味俺も魔法みたいなことはしてるけども、価値が月とスッポンなんだよな、もちろん俺がスッポンだ。 何はともあれ少し恥ずかしそうにしている成から衣装を受け取った。畳まれているせいで全貌はわからないが、黒と白が印象的で俺がきていたあの踊り子衣装に比べたら何倍もマシな服な気がする。ちょうど料理しやすいように白いエプロンまだついててってちょっと待て。なんで服にエプロンが付いてるんだ? よく見たら黒いそれもフリルがついているのだが…… 「おい、これ……」 「着てみてください」 「いや、その前にさ」 「俺も見てみたい」 「オレも」 成に事実確認をしようとしたが、3人のあり得ないぐらいの圧で黙らされる。この服については大方の予想はついたが、それでも認めることが出来なかった。この俺が、175㎝もある俺が、遂にアレを着る日が来たのか。あんなにキラキラした目で見られては反論のはの字もできない。もうどうなでもなれの精神を軸になんとかこの屈辱と羞恥に耐えることしかできなかった。 黒を基調に、白いフリルのついたミニスカートを履くのは、踊り子衣装を着る時と同じような感覚を覚える。驚くぐらいサイズがピッタリなのは、成の魔法のおかげである事を祈る。真っ白のエプロンをつけて、白ソックスとブーツを履けばればもうそれは紛うことなき…… 「ずげぇ……やっぱ何着ても可愛いな」 「やっぱり僕の目に狂いはなかった!」 「似合ってんじゃん! なんていうんだっけか、そういう服。メイド服だっけ?」 そうそれだ。遂に踊る様を見られる存在から、奉仕する存在にグレードアップした。いやこれはグレードアップとは言わないかも知れないが、ある意味踊り子よりハードルが高いものだと思う。 「お願いです。その姿のままでお帰りなさいませ、ご主人様と言ってください」 いやだよ。成が必死に頭を下げているが、俺は決してそんなことは言わんぞ。外野ぶってる他の2人も見てないで助けてくれ。 抵抗はしたかったが、これ以外の服はない。俺は少しため息をついたものの、服を準備していなかった自分の責任、しばらくはこの格好でも仕方がないと恥を隠した。

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