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第87話 結腸

「俺さ……中学の時から梓のことマジで可愛いって思ってたんだぜ。お前について行くために高校も男子校にしたってのによ、いきなり異世界に飛ばされて、発情体質になってエロくなったんだからな。鴨がネギ背負ってきやがった」 薫の声色は落ち着いているものだったが、同時に嬉しさが隠しきれていなかった。まるでこの状態の俺を祝福しているように、愛に満ちた目が怖くてたまらない。俺は他人を恨んだら妬んだりはする人間だ、怒りもするし感謝もする感情豊かな一般人だ。それでも初めて、俺は俺という人間を芯から震え上がらせる狂人と呼ばれるべき人格に出会った。 何年も前から特定の人への想いを密かに育てて、環境が変わっても目の届く範囲に自分の居場所を作る。そしてその人が大変な時に想いを勝手に解き放って暴走している訳だ。薫の場合だと酒だの何だのを仕込んで、こうやって無抵抗のままレイプしている。どう考えても恐怖以外の何者でもない。 「やっと俺にもツキが回ってきたんだなって思ったのによ……あんなぽっと出のヤンキーと恋人になってさ、ふざけんなっちゃうに。最初に目をつけてたのは俺なんだよ!」 「アあ、しょん、な、しらなぃ! やぁ、ちんごぉふがず、ぎぃ……ごわれる!」 「壊れろよ、もう誰にも抱かれないように壊れっちまえよ!」 どう考えてもコイツの逆恨みだ、仁はもちろん俺だって悪くない。俺たちの関係に不満があるのなら面と向かって言って欲しかった。少なくともこんな形で知りたくなかったし、何よりこれ以上幻滅させてほしくない。ケツをガツガツ突くその腰使いは全く加減を知らないまま、俺の前立腺とその奥を鬼のように抉る。 「くぅっ……知ってるか? ここ、S字結腸って言ってな。馬鹿みたいに気持ちいいんだとよ、真田のことなんか忘れちまうぐらい気持ちいいかもな」 「ひぃ……い、いやだぁ……!」 一体絶対男の体はどうなってんだ、なんでこう身体の内外に性感帯が馬鹿みたいにあるんだよ。いいやそんなことより、仁を忘れるのは嫌だ。魔王の一件と同じほどの恐怖を味わって頭が働かなくなっている俺は、嫌だ嫌だと子供のように駄々を兼ねることしかできない。そしてそれは奇妙にも、同じ真田仁に嫉妬した男によってもたらされるものだった。 こんな無抵抗に泣き崩れた男が大層お気に召したのか、中に入っているモノがさらに大きくなった。本気で俺を壊す気なのか、この男。身体の熱がサーッと引くのが分かった、来世は鳥が決定しているかのように身体中に鳥肌が立つ、熱が引く代わりにまけまけいっぱいで溢れていた涙の水門がついに決壊してしまう。 「ほら、泣くなよ。壊れても、仁に愛想尽かされても、俺が使ってやるからな」 「……協力した俺らがいうのもなんだけど、本気で頭おかしい奴だったんだな」 「あの陽キャ面の裏にこんなん隠れてるとかマジないわ。素顔知った女は全員引くだろうな」 「お、おい……そろそろ梓が……」 あまりの狂いぶりに、静観していた明や疲れ気味の暁彦もいよいよ口出しし始めた。ふじやんはというと、俺の名前を呼びながら何も出来なさそうに唇を噛むばかり。しかし俺の瞳はもう今後の生涯で恐怖の象徴となるであろう笑みを浮かべた薫しか写さない。なんで俺、こんな目にあってんだよ……?何も出来ない、来ないでと言いたくても恐怖でただが震えてしまうだけに終わる。折角なら初めては仁が良かった、そんな世迷言は心の中からいくらでもつらつらと出てくるってのに。 薫のそれが、俺の最奥に音を立てて直撃した。精神的な天地返しを初体験、できることならもう2度と経験したくもない。喉から声が出ない、身体中の正気が尻穴に集中して頭に回ってこない。魚のようにパクパクしている唇に、強引に何かが侵入してきた。 「ぅう……こうやって結腸ガンガンついて、いっぱいキスしてやればさ、身体も頭も俺でいっぱいになれるな」 「やぁ、やめて……もうむりぃ、おじりでぇイッぢゃう」 「いいよ。本当はもっとしてあげたいけど、《《今回は》》ここまでにしてあげる」 言い回しが耳に引っかかるような気がしたが、すぐさま始まった律動でそれはもう掻き消えた。さっきまでの快楽や恍惚を抑え込むための動きではない、完全にイかせるための動きだ。喉からでる喘ぎ声はすでに水音のそれを軽く超えている。中に出される、そんな動きしてる、結腸に出されたら、もしそうなったら……俺はどうなっちゃうんだ? 「っッッ……出すよ! 俺の子供出来ちゃうかもね、いいよ、一緒に育てるから」 妊娠。俺の脳内での疑問は最悪の形で答えられた。もちろん踊り子とは言えそんな簡単に妊娠するわけない……と思うのだが、今この状況下ではなってしまうのでは……そう思ってしまう。 「あぁう! いやだぁ! 赤ちゃん欲しくないぃい、仁、じんどこぉ、たしゅけてぇ!」 「くっ!! 本当にムカつく奴だなぁ真田仁! こうも俺の純愛を邪魔するなんて!」 何が純愛だよと思いはしたが、萎えて行くそれを感じてああ地獄が終わるとも一安心した。根元までガッポリ入ったそれが抜けるだけで体力を消費する。……もう、休ませて。 「困難じゃ出す気にもなれない。……お前ら二人はいいのか? やらなくて」 ……死ぬ。頭がゆるゆるの俺がもっと頂戴とか言ってんのは黙らせたい。 「いや、俺はいい。梓は好きだけど、こんな弱ってる奴をレイプするのは流石に趣味じゃないから。……でも藤屋はしたいんじゃないのか?」

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