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第164.話 色んな兄弟

「えっと……弟くんについて色々と話すことが出来たよ。まずはベルトルトさんの話を聞いて欲しいな」 ただならぬ雰囲気をそのままにするのはいろんな意味で良しとしないだろう喜助が、ここぞというタイミングで間に入ってきた。ありがたい、俺が間に入っても毒にも薬にもならんこの状況で第三者は願ったり叶ったりだ。両手で家宝のように大事に持っている水晶玉からは、ベルトルトさんしかもリーさんに現王様であるトルチさんまで顔を出している。ひょっとして思ってるよりも大事? 無駄に顔面がいい男の人に挟まれた人の良さそうなお爺ちゃん、もっと言うと6、70そこらの父親と三十路もいいとこの独身息子2人。強国の王族でもこんなんだから世界救う勇者が珍獣の集まりでもいいのかなと彼らをみると思ってしまう。蓮くんはいくら長谷部と記憶を共有しているとはいえなかなか事実を受け止めるのはなんだかんだ辛いものがあっただろう、少しぐらいの修羅場はまあ我慢しようかな。 「お前ら久しぶりだな〜まさか弟が来るなんてよ、仕事増やしやがって」 「本音漏れてますよ。前から思ってましたけど国民のお悩み相談室の時ももう少し丁寧な言葉遣いをして下さい、王族の威厳が損なわれます」 「いいんだよどうせアイツらの悩みなんて今年の秋刀魚の値段だの、魔王のせいで流通や娯楽がどんだけ制限されんのかとかそんなもんだし。あ、あと例の踊り子はいつ来るのかっつう質問が急増してんだ、巳陽梓お前いつかはなんとかしろよ」 「ご、ごめんなさい……?」 なんだか最初会った時よりやさぐれてる気がしないでもないチルトさん。片手にはやはりビール、タバコの本数も増えていないか心配になるばかりだ。とにかく大なり小なり俺のせいでそれなりに被害を受けているから謝っておいた。 「謝らなくていいんです、寧ろ頭を下げるのはいい加減な対応してるトルチですから」 「えっとその……ちゃんとさばいてくださいね?」 「はい。兄として責任持って裁かせていただきます」 「いやそっちじゃなくて、質問を捌いて下さいね?」 「はい。両方ともキッチリさばかせて頂きます」 あいも変わらず弟に対しては容赦のないリーさん。こうして見てみればこれも1つの兄弟の形だろう。弟を守り兄を尊敬する皇子様とタマモ、それとは真逆に優秀な弟のちょっとだけ捻れた愛情を受ける無能な兄である俺と蓮くん、そして王位を告げなかったながらも兄としての威厳を失う事はない……というより弟が上手い感じにバランス取ってるリーさんとトルチさん。いろんな形の兄弟だな。 ひょっとして異常だと思ってるこの関係も案外普通だったり? いやいや、いくらなんでも兄弟で中出しセックスするようなやつは世界中本気で探し回ってもいないだろう……いないよな? 何とか脱線を元に戻そうとベルトルトさんが咳払いをした。 「とにかく、まずは梓の弟について話しておく必要がある。前提として巳陽蓮に交代した長谷部晴雄に健康被害はない、至って健康体じゃ。だが魔力が常時減り続けている、0になれば……おそらく自然に晴雄に戻るじゃろうな」 健康被害がなけりゃ何でもいいわけではないけど、見張るほどの問題点はないようでとにかくよかった。いつ戻るのかは分からない、蓮もわからないらしい。 「それで、なんで2人共が来てくれてるんすか? いつもならベルトルトさん1人だけなのに」 そうだ、仁に言われて言うことがなくなったが俺もそれが気になる。このガラスでできたチキンハートは、特に問題がないのに大人数で来られると何かいけないことでもあったのではと無駄な心配をしてしまった。それに関しては俺が説明すると酒を飲む手を止めたトルチさん。多分この人は俺のことが嫌いだろうけど、それでも話をしなくてはならない。 聞けば俺達の召喚と異世界特典による職業の解放、そして水晶への恒常的な魔力供給によってベルトルトさんの魔力は無事使い物にならなくなった。あと1ヶ月は水晶玉で通話する以外のことは出来ないと言うのが2人の会見だ。代わりにチルトさんが蓮くんの職業を解放してくれたらしい。ちなみにリーさんは変なことしないようにと見張りのために来てくれたようだ。 「巳陽蓮の職業はイタコだ。まあようは降霊術の使い手ってことだな」 「こ、降霊術!?」 3人曰く長谷部の魔力と霊感体質、そして蓮の降霊術の才能がうまく共鳴した結果奇跡と言ってもいいほどの口寄せを実現したとのことだ。晴雄と蓮くんは魔力も共有してるから技を使うほど蓮くんが戻る時が早くなる……なんだか実感湧かんな、こうして見てからは違っても弟というだけでなかなか来るものがあるのに、しかし周りはそうでもないようだ。 「おい技使えや早く戻せ」 「嫌だ、こんなケダモノどもに兄貴は任せられない」 「じゃあお前梓の可愛い所10回言えんのかよ」 「お前だって兄貴のエロいとこ10個言えんのか」 賑やかだ。……色々考え込む方が愚かなのかもしれない。俺は自分の意思で耳の機能を遮断した。 「兄貴の魔法下手はいつまで経っても治んねーな、《《もう1人の兄貴》》はメチャクチャ美味かったのにさ」 「コラ! それは言わない約束ですよ!」 「……もう1人?」 でも俺の大事な恋人は、それを聞き逃すことはなかった。

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