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第173話 呪いの指輪
結果炎が消える頃には流石に眠くなってきたから、楽しかったのに眠たいと言う小学生以来の楽しいジレンマを噛み締めながら毛布に入った。
……
…………
………………
随分と体が重いな、結構ぐっすり寝たはずなのに、やっぱりぎゅうぎゅう詰めでは十分に疲れが取れなかったのか。
……いや違うな、ここどこだよ。見渡す限りの真っ暗闇、さっきまで共におでんごっこのようにぎゅうぎゅうだった仲間は勿論、荷台すらもない、もっと言うと防寒機能のある一枚の毛布すらも消えていた。つまり何が言いたいかと言うと、心の底からどこだよここ。体が重すぎて持ち上がらない、首を動かすのが精一杯のこの金縛り状況をどうしたものか。
「やあ、やっと起きたね」
「……げぇ!」
人生史上最も最悪な音が聞こえた。ここ最近増えるばかりだった心配事が減って、小学生みたいな気分で眠れたのに、最悪のタイミングで邪魔者《魔王》が出現した。しかもご丁寧に何が指輪のケース持ってる、そんなにこやかな顔されても何も嬉しく無いぞ、シンプルに来ないでくれ。
「ここまで拒絶されるなんて……」
そうだコイツ読心術使えるんだった、ありったけの罵詈雑言をかき集めてたらそれも無事読まれたらしく、1人傷付いていた。そうだその調子だ、その勢いでさっさと俺のことは諦めてくれ。
「そこまで言う必要あるかい!?」
「普通はないけどお前にはある」
大体コイツが絡むと碌なことがないなんてのは初回で十分にわかった。願わくばもう2度と出会いたくない、嫌いというよりなんて言うんだろうな……トラウマなんだ。顔面がいいのが更に同じ同性として苛立ってくる、こんなとんでもねえ魔王にどうしてあんなにいい顔面がついているのか、この世界は間違っている。あと此処どこだよいつの間に監禁が趣味になった、まあいつかはするだろうと思っていたけども。
「あー……此処は梓の夢の中さ。ちょっとお邪魔させてもらったよ」
「呼んでないです」
「これは君のために作った婚約指輪なんだ。手作りしたんだよ? 装飾は勿論のこと、宝石の中に入ってる呪いだって全部僕が作ったんだ」
「捨てて下さい」
涙目になってるけど知ったこっちゃない。呪いが付与される指輪とか死んでも着けたくない。黒いケースから出てきた指輪は魔王が作ったとは思えないぐらいシンプルかつ上品なもので、真ん中に小さいながらも存在感を発揮するドス黒い宝石に目を瞑ればかなり立派な婚約指輪だ。……そういえば異世界にも婚約者に指輪を渡す習慣ってあるんな。
「気に入ってくれたようでホッととしたよ、少し地味かなと心配していたんだ。首飾りや腕輪もいいなと考えたのだけれど、梓の世界では指輪がメジャーなんだよね? 花嫁と花婿がお揃いの指輪をつけるなんて素敵な文化じゃないか」
これが魔王じゃない別の人の言葉ならいい人だなって思えたのに。そんな風に言われて悪い気は微塵もない、むしろ照れ臭く感じるぐらいだ。恥ずかしいとも言うのかもしれない。金縛りにあった俺の左手に触れたと思うと、その黒い宝石の指輪を……って待て。
「あの、要らないです」
「婚約指輪……って名前ならいずれ結婚する人に早いうちに渡しておく事もできるのだよね?」
それは知らんし言いたいのはそんな事じゃない。つけようとした瞬間の話、今まで見た目の割には静かだった黒い宝石がピカッと光り輝いた事だ。黒い光なんてはじめて見る、その小柄な図体からは考えられない発光力ではじめて見たちょっと綺麗なんて呑気な顔を考えられたのはモノの数秒だった。
教えてくれ、その指輪はどうな宝石で、どんな呪いが込められているんだ? どうせお前のことだ、心読んでんだから声に出す必要もないだろう。
「……これはね、婚約の呪いがかけられているんだ。大丈夫、人体に害はないしましては死に至るなんてのもない」
婚約の呪い。背筋が凍る思いがする、喉の奥から鉄のような味が込み上げる、こんな極限状態でも身体は一寸も動いてはくれない。震えることすらできずに嫌だ、何だよそれと薄い息の中とい続けた。
「怖がらないで、全部僕に任せていい。この指輪はね、着けたら2度と外せない。解き方はあるけど僕にも知らない。これをつけた瞬間、君の左の手のひらに50って数字が出るんだ。怖がらなくていいよ、それは1日過ぎるごとに一つずつ減っていく、そしてゼロになった時には、
君が僕の事を好きになってくれるんだ」
もう何も声が出せない、まだ身体は動かせない。嫌だ、辞めてくれ。仁、助けて……
「……そんなに悲しまないで。50日後には君の夫は僕になる、真田仁のことも忘れることができるよ。勿論仲間の連中もね」
心の中の悲鳴、動かない身体、一滴もこぼれてくれない涙、そして再び襲いくる強い眠気。
「もう時間だね……じゃあね、また明日の夜に逢おうか」
薄れゆく意識の中、俺の左手の薬指に確かな重さが加わった。
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