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第176話 究極の選択
全員集めてもらった、眠いと抵抗したものも新しいけど俺と魔王のことを口にすれば皆水を得た魚のように飛び起きたとのことだ。低血圧なのか最後まで粘った明はふじやんに担がれる形で連行されていった、これでまだ寝てるんだから見上げた根性だと思う。
朝食も忘れて(ひょっとしたらお腹空いてる人もいるだろう)クラス会議が始まった。さまざまな目で見られたが、隣で仁がしっかりと手を握ってくれてて、握り返すだけでも元気が出る気がした。
「……つまり、その手の数字が0になると、梓は魔王と結婚することになると?」
「なんか、そうみたいだ」
「話を鵜呑みにすると、なんか強制的なものを感じるよな……洗脳的な?」
「た、多分」
実際あいつは結婚するとは言ったけどそこら辺までは言及してない、というよりあの時の俺が聞くのを忘れてた。純粋にそこが気にならなかったというのもあるし、そもそも恐怖で気が動転して判断力が死滅した。今になって色々と疑問が生じて後悔するんだから世話ねえな。
そもそも仁や仲間のことを忘れるというのはシンプルに記憶が消えるという意味なのか、それとも少し捻って好きだった事だけを忘れてしまうのか、それすらもわからない。どちらだったとしても絶望には変わらないが、そういう話をしているんじゃあない。
「……そんな呪いの効力とか話してる場合じゃないだろ、大事な仲間がピンチなんだ、助けること考えねえと!」
呪いそのものについての話でもちきりになってるところ、1人が異議を唱える。切羽詰まった顔してるそいつは次田真司《つぎたしんじ》、多分学年1の点取り要員だ。クラスに1人はいるだろ、球技大会とかいう一部の人間のためのお遊びでコイツ出しときゃ勝てるよなみたいな感じで信頼されてる奴、それなんだよ。数合わせでサッカーや野球にちょびっと入って終わるだけの俺からしたら羨ましい……いやでも動きたくないからやっぱりいいや。
野球部のエースだし、身長も高いし、これで頭がついてくれば……いや失礼性格は素直で面倒見もいいし男子校じゃなきゃ絶対モテてる。そんな奴が俺のためにここまで焦って怒ってくれるのは、怖い云々の前に少しだけ嬉しい気がする。本人からしたら不本意だろうけど、それでも自分のために色々考えてくれる人はありがたい。
「でもさー真司ちゃん、梓の話によっちゃ呪いとか方法はあるんでしょ? ならまずは相談して色々擦り合わせるのが大事じゃないの?」
熱くなりすぎだと判断したのか、想像以上に冷静は対応の薫。……解き方はあるけど僕にもわからない、最後の希望と頭が判断したのか、この言葉はしっかりと思えている。そんなふわふわした物にしか縋りつかないのは悔しいけど、掴めるものがある限りセーフだ。それがなくなったら……また新しい掴めるものを探そう。しかし1番の問題は魔王にも解き方がわからない点だ、拘束だのなんとかして呪いを解けと迫ることすらできないんだ。
「なに冷静になってんだよ!」
「そっちこそなんで必死なのさ?」
「ッ……お前、梓が大事じゃないのか!? 今までみたいに時間制限なしで確実にやる事なんて出来ない、これは魔王によって仕組まれたタイムリミットだ!」
タイムリミット、その言葉が胸にグサリとくる。これはまだ50、1日ごとに数が減り、0になると……考えたくはないな。つまりは後50日の猶予しか残っていない、多いか少ないかは人の勝手だが、少なくとも俺は切羽詰まってる。16年しか生きていないけど、いやそのせいか、1ヶ月とその半分なんて短過ぎると感じる。
「どうどう、大丈夫みんな不安だからね。でもみんながお前みたいな筋肉頭だと困るでしょ? たとへばこういう時、冷静な頭脳派がいないと猿みたいに感情で物事進めちゃうじゃん」
「猿って……馬鹿にしてんのか!?」
「誰が猿を悪く言った? 俺は猿がダメだなんて一言も言ってないじゃん。感情と頭脳はそれぞれ出ていいタイミングってのがあるんだよ。今は頭脳の時だから、勇敢で優しい猿のお前はそん時を待っててくれ」
「……お、おう」
凄いな、薫は。元々相手の揚げ足取りはうまくて煽り性能も高いけど、今回は違う。煽って揚げ足取ってそのままあるべき所に座らせてやった感じ、何を言ってるのかわからんと思うが俺もよくわからん。それに……未だかつてないぐらい真剣な表情してるからか、全員が薫の言う事を聞いている。
「やれやれ、遊んで終われると思ったからふざけてたのに……工事で遊び場所壊されたガキの気分だ」
よくわからん事言いながら、真司を宥めてそのまま隣に座った。
「で、どうすんの? 大体魔法や呪いってかけた奴殺せばなくなるよね。魔王《《退治》》して異世界平穏にして、梓を捨てる? それとも《《殺して》》異世界平穏にして、梓助ける?」
目が笑っていない、いつもの気味の悪い白々しい笑いじゃないもんで、皆が一気に本題へ迫る。
魔王を退治するか、殺すか。
俺を見捨てるか、救うか。
自分が人殺しにならないか、なるか。
誰を選んでも最初の目的である異世界を救うは達成できる。後は、俺たち次第。これはある種の、究極の選択となり、俺たちに立ち塞がった。
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