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第178話 現実逃避
勿論反対意見、賛成意見は数多く存在した、この問題において最適解は存在しないし最善策は最初からない。だからその全てが正解じゃあないし、かと言って俺たちが出した答えは間違いに決まってる。
「みんなでやればいいだろ! 40人もいるんだ、2人に背負い込ませる必要はないだろ?」
「じゃあお前は人殺しできんのかよ」
「お、俺がやるよ……そしたら誰も苦しまねえ……」
……ごめんな、でももう決めたんだ。こう見えて頑固というか強情なもんで、どんだけ辛くてもやるって決めたら出来るんだよ。俺は死ぬ気でやっても出来ないことをやるだなんていうほど馬鹿じゃないし、幸せな話恋人もいる。心配してくれる事は嬉しいし耳に入れておくけど、納得するつもりはない。
「いいんだよ……さあ飯の時間だ! さっきからずっと腹すいて仕方がなかったんだよな、朝からガッツリ行きたい気分だな」
「ベーコンと卵にしようぜ、デミグラスソースかけて食うと美味いぞ」
「目玉焼きにデミグラスかけるんか……」
心配の姿勢を崩さない周りをよそに、さっさと飯を食うことにした。シンプルな空腹と、あと美味しいもの食べて精神衛生を良くしたかった。そん時になればそん時の自分が頑張る、それが俺の流儀。だから今は呑気に飯食ってても問題ない。どうせ大なり小なり葛藤は怒るんだから、できるだけ短くしよう……という半ば現実逃避のための行動だけれど。
それにしても目玉焼きにデミグラスソースは聞き捨てならない。誰が何をかけようが人の勝手だけど、それでも俺は塩コショウが1番だと主張したい。仁は甘いもの好きというよりちょっとした甘党だから、砂糖を雪崩のようにドバドバかけてるよかマシだとは思うけど……
「え? お前塩コショウなん? 一回でいいからデミグラスかけてみろよ、甘くて美味いぞ」
「目玉焼きに甘さは求めてないんだ。カリッと焼いたベーコンにはある程度の辛さがないとな」
「じゃあ何に甘さ求めてんだよ」
「スイーツとか、お菓子とか? まあお前みたいに甘党じゃねえだけだから。おらそれだけじゃ足りねえからマッシュポテトも作るぞ、湯沸かししろ」
「それには……ソースだな」
「甘いの好きだな」
これ以上何を主張しても聞いてくれないと判断したのか、全員釈然としない顔ながら食事の準備を手伝ってくれた。そうだそうだ、今は現実逃避してどうしても悩まなきゃいけない時だけ悩むんだ。俺の自慢できない十八番の一つ、未来の自分に責任転嫁を無事に成し遂げた事で随分気が楽になった。
「目玉焼きには醤油だよなぁ」
「あ? ソースに決まってんだろ」
「僕は塩がいいな〜」
思っているよりも巳陽梓はショックを受けていない。そう判断したのか、全員がまあ楽しそうに準備をし始めた。40人分のポテトをマッシュする健吾とふじやんは面白すぎたし、イメージ的にはさながらアメリカというよりドイツの朝食だ。アメリカはもっとなんだろう……エッグペネディクト食べてそう。手が混んでそうだし第一作り方知らない、奏あたりに聞いたら教えてもらえそうだけどめんどくさいからやっぱいいや。
「これでソーセージあったらもろドイツだったな」
「あー確かに。ちょっと惜しいな」
「どうせなら焼こうぜ、あの和の国で貰った和風版ソーセージ」
そんな感じで盛り上がっていった。気が付けば想定以上の量になってたし、多分朝あんまり食べれない人にとっては地獄とも言えるボリュームだと思う。俺は全然平気だ、今朝のことでもう眠気は覚めるは色々ありすぎて寧ろやけ食いしたい気分。
ベーコンエッグ(各自好きなのかける)にマッシュポテト、和風ソーセージと米で出来たパンおそらく和洋混合ってこういうことを言うのだろう。まあ素材の味大事にという名の味付けゼロだから、不味いはずがない。
「「「いただきます!!!」」」
いまクラスの連中に足りていないもの、それは飯だ。俺に足りていないものは時間と飯だ。つまりなんやかんや言いながらも両者ともに空腹だったわけで、結局のところみんないつもと同じように朝食にがっついていた。
俺はそれで満足している、死んでも魔王の花嫁になんてならないし、ショックで何も出来ずに泣いてしまった分の不覚は取り戻したい。勿論納得していない物が大半だろう、明確に魔王に対する殺意を感じる人間もいた。実際直ぐ隣にいる人間は、この日を境にどんどん暴走していくことになる……
「……おい仁、なんで俺にあーん(食べさせようと)してくるんだ?」
「いや、少しでもスキンシップ取りたくて」
仁の精神のためと思って承諾してしまったのが間違いだった。あんだけ大口叩いといてまだ精神的に安心できていなかったみたいだ、乳児のように世話を焼かれるのは門限破った時にされた弟による赤ちゃんプレイ以来。
……少なくとも、これからの仁の大暴走を考えると全然良心的だった。
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