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第203話 我儘、強気
布団にくるまる、まるでロールケーキのように。
「なあさ、晩飯いかくてもいいのか?」
「いらない」
どうやらホロケウさんと一緒に作る例の寄せ鍋が完成したらしいけど、あいにく俺は面と向かってみんなのところへ行って飯を食う気分ではない。まず第一に腰の痛みから始まり、迷惑をかけてしまった喜助を後処理に駆り出してしまっていることの罪悪感が続き、そんでゴールは潮吹きというのは存外体力を使うことがわかる全身にある疲労感。ようは色々と辛い、勿論こんな状況でまともに顔を合わせる度胸は持ち合わせていなく、そっぽ向く&布団に潜るの隙のない二段構えだ。
でも食欲がないのかと聞かれればそんなことはない。お腹はグーグーとなっているように実際お腹が減って力が出ない状況だ。でもこの全身の疲労感をどうしたらいいのか、脳内で1人格闘していた。
「じゃあその、オレが持ってきてやるよ。適当に梓の体調が悪いって嘘ついときゃいけるだろ、多分」
「僕が行くよ。真田は嘘下手そうだから」
「委員長は得意なんかよ」
「少なくともお前よりかは」
……なんかまた世話を焼かせてしまったな。そのまま行ってくるの一言だけでリビングに向かっていった。最悪ホロケウさんにはバレるけどそんな無粋な真似はしない人だと思うから、百歩譲って問題ないとしよう。
喜助の事だけを気に病んでいると、背後からよっこらせと言いながら布団を剥ぎ取られ、挫けず不動を貫いていたが抱きつかれた。最初はどうしていいのかわからずに無視していたけど、このままの空気に耐えられなくなって短く何? っと聞くと、力が強くなるのを感じた。
「よかった、2回も二輪責めしたから嫌われたんかと」
「別に。俺にも責任あるし、1番の被害者は喜助だし……嫌ってないよ」
大好きだ。今それをいうのは少し照れ臭くて(多分仁が一番喜ぶ言葉)、ただ無抵抗という形で意思を伝えることしかできなかった。あとこれ以上何を話せばいいんだろう、一応恋人な筈なのに陰キャコミュ障とヤンキーの天然だからいまいち会話が弾まないんだよな。仮にもし何かの話題で比較的長時間話せても、
「喜助とオレ、どっちが良かった?」
「どっちもまあそれなり、絶倫と遅漏は地獄だけど……」
「でもオレの方がチンコ大きいぞ。梓のいいところ知ってるし、身体も筋肉もついてるし」
「つまりお前の方がいいっていって欲しいのな」
こんな感じだ。甘えん坊なのは少し可愛い気もするけど、ガッチリと掴まれた状態で離されるとなかなか怖い。不器用なだけで優しいとわかってればまあ、そうでもないけど。
「明日には元気になってそう?」
「普通に動けるぐらいにはなってるはず……腰痛は今回そこまでだし」
「もしダメだったらオレがおぶってやるからな」
「ええけどお前明日は氷河で雪の妖怪? と戦わなあかんで」
「それぐらいなんちゃねえよ、いっぱい我儘言っていいぞー」
お仕置きしたかと思えば我儘言っていいと言ったり、彼氏ってのはこんなもんなのだろうか。ポカポカしててあったかいせいか、腹空いてるのに安心して眠ってしまいそうだ……流されやすいんかな俺って。
「こらこら寄せ鍋忘れたんか、明日は久々に暴れるから少しでも腹に入れとけ。なるのはその後だ」
優しく体を持ち上げられた。すっかり塞ぎ込んでいたことも忘れてしまった俺は、仁をそのままに枕元に忍ばせていた巻物を広げた。例のヒノマルに伝わる巻物だ。
「……今後のためにも巻物を読み込んだかないと」
「うわこれが例の草書か、マジで読めんな」
「俺もまだサラサラとは読めんけど」
今まではコツコツしていくかとか考えてたけど、これはもう待っていられない、タイムリミットがある上で毎回のようにこんな感じで発情してたらいつまで経ってもベルの所へ行けない。……この際多少の無茶はセーフだ、実践形式でこの書物の技を叩き込んでいくしかないな。でも何がいいんだろうか。
すると恋人がただ巻物を読んでるだけで退屈に感じたのか、後ろの仁は少し乱暴目に俺を引き寄せて質問してきた。
「関係ない話するけどさ、やっぱ踊り子って敵誘惑したり味方側に帰するのか仕事だよな」
「まあそうだけど……今の俺は味方を誘惑してるから問題なんだげとも」
「でもやっぱ羨ましいな……いつも嫌々言ってる梓に誘惑されるって役得すぎる」
そっちかよ、まあ恋人がいるのに誘惑なんて流石の俺でも発情で頭おかしくなった時しかしない。冷静に考えたら魅了スキルが強すぎるってのは魔物相手に戦う時に役立ちそうだな、魅了すれば確実に隙が作れるし。
「そしたら梓が魔物に襲われるかも……」
「それはあれだ、リスクのうちだ」
「そんなことされたらオレ怒りでそこらの森の木全部切り倒して殲滅するかも……」
「環境破壊は気持ちいいぞいってか?」
……この世界の自然環境のために誘惑は最終手段としておこう。それにそろそろ喜助が来そうだ、足音がする、カツカツと聞こえのいい足音が止まったのち、ドアが空いた。お盆を待ったその手ではドアが開けにくかったろうに、遠慮せず一声かけてもいいんだぞ。
何やら疲れている様子で鍋の具が入ったどんぶりを三つ持ってきた喜助は、部屋の中央にある机にお盆を置き、そのまま椅子に座った。
「どうしたんだ?」
「梓が具合悪いというとみんな血相変えてね、多分もう時期ここに押しかけてくるよ」
「ま、マジで?」
「そんなに引っ付いてたら辺な目で見られると思う……」
急いで離れて平常を装う(気持ち具合悪そうな演技も一応)、仁が外見てくると言って部屋をさった後、喜助は優しく笑った。
「ねえさ、梓って真田に引っ付かれても発情しないんだ」
あ、たしかにと声に出していってしまった。昔はそれだけでも身体が熱くなったり頭がポワポワしてたはずなんだけど……慣れってやつかな? そういうと喜助は物思いに耽ったように机に膝を立てて頬を置いた。
「ふーん……」
「な、なんだよ」
「今の僕じゃあ、まだまだ勝てないなってさ」
ヘタレのくせに少しだけ? 強気になった喜助を何故だか嬉しく思った。全員がこの3人でも十分狭く感じる部屋に押しかけてくるのは、これの3分ほど先。
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