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第1話
微睡んでいた意識がハッキリしてきて、ゆっくりと目を開ける。
ーーここはどこ?
冷房の効いた部屋で柔らかな布団に包まれていることに気がついた。
隣の部屋からの明かりがほんのりと漏れてきており、テレビだろうか、人の声が聞こえてくる。
頭を起こして隣の部屋を見ると、テレビを見ている男の背中が見えた。テレビの明かりに照らされた明るい髪色。
わずかに痛む頭を押さえながらベッドから起きあがろうとするとスプリングがギシリと音をたてた。
「……ん? あ、起きた? 」
その音に男がテレビから視線を外しこちらを向いた。
ショートウルフカットの金髪に、耳にはピアス。
白いシャツは着崩され、解かれた藍色のネクタイが首に引っかかっている。
端正な顔立ちに切長の瞳。
初対面のはずなのにどこか既視感のある顔だ。
一瞬ギラリとした瞳が向けられるが、男はすぐに柔らかく微笑んだ。
「大丈夫? 君さ、道路で倒れてたんだよ。俺、ほっとけなくてさ、家に連れてきちゃったの」
その意味を理解するのに時間がかかったが、すぐに服を見る。着崩れている様子はない。ここまで運んで来たのだろうが、運ばれた記憶も全くない。
覚えているのは、バイトが終わり、帰る途中だった事ぐらいだ。
慌てる様子を見て、男は声を出して笑う。
「あはは、大丈夫だよ。なぁんにもしてないって。ベッドの右側にバッグ置いてるからね」
警戒しながらも置いてあるバッグに手を伸ばす。スマホも財布もカードも無事だ。
スマホの時間は午後三時。確かアルバイトが終わったのが、午後二時。男の話が本当ならば一時間ほどここにいたことになる。
「おねーさんさぁ、こんなに暑いのに日傘も帽子もなしで歩いてたらさ、そりゃ倒れるよ。はい、起きたんならちゃんと飲んで」
男は呆れたような声で言い、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して差し出してくる。
「あ、す、すみません。ありがとうございます」
ペットボトルを受け取ると、男は笑ってちらりと時計を見る。
「落ち着くまで居てもいいよ。あ、もう少ししたら調理担当が帰って来るから大丈夫そうならさ、ごはん食べてってよ」
「い、いえ……これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」
あわててバッグを持ち外に出ようとすると、外から玄関の扉がガチャリと音を立てて開く。
「ただいま帰りました」
部屋に入ってきたのは黒髪のショートウルフカットの男。金髪の男と同じ切長の瞳。鏡写しのように基本的なパーツがそっくりだ。黒髪の男の視線がこちらを向く。
「……あなたは」
黒髪の男には面識があった。
同じ大学の先輩で、同じバイト。端正な容姿に高身長。柔らかい物腰と誰にでも優しい態度。スポーツ万能、成績も良く先生達からも高評価。女子達の間では『ハイスペ王子』、『神が作りし最高傑作』と言われている男。
目が合って男が微笑む。金髪の男と同じ笑い方だ。
「先程ぶりですね、神岡ケイコさん」
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