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第6話
「ねぇ、もっと喋って。喋んないとケイコさんの事、何にもわかんなくて嫌なんだけど」
「う、うん。……よ、ヨゾラ先輩って料理すごく上手だね、小さい頃から料理してたの? 私は大学行くまで全然したことなくて……」
差し障りのない話題からなんとか会話を続けようとする。
ーーガシャン。
ナナトの手からスプーンと食器が落ちて、中身がこぼれる。
思わずナナトを見ると微かに手が震えていて、表情が抜け落ちていた。
尋常ではない様子に驚いていると、ヨゾラがやってきて布巾で机を拭いて、スプーンと食器を回収する。
「…ナナト。しっかりしてください」
ヨゾラの腕がナナトの頭を包み込んで抱きしめる。
ピクリとナナトの体が震えるのが見えた。
「ケイコさん。言うのを忘れていました。僕達の過去は詮索しないで頂けますか? 二度は言いません、分かりましたか」
「は、はい」
「……もう、いい」
ナナトはヨゾラの手を乱暴に解く。怒りの籠った瞳でこちらを睨みつける。
「もー面倒くさい。全然言うことわかってくれねーし。いつも不満そーな顔するし。いつになったら賢くなんの? 」
「ナナト、落ち着いて」
ヨゾラの制止を聞かず、ナナトは私の座る椅子を思い切り蹴る。衝撃で体が床に投げ出される。
怖くなって、ナナトから距離をとって後退する私をナナトは冷やかに見下ろす。
「たくさん甘やかしてここから出たくなくなるようにしようと思ったけど、気が変わった」
後退する背中が壁に当たる。
「二度と外に出られないようにしてあげる。言うことをきけない子は嫌い」
「……!! や、こ、来ないで!! 」
こちらに歩いてくるナナトに向かって、床に置いてあったリモコンや本を手当たり次第投げつける。
もちろんそれらは見当違いの所へ飛んでいったり、稀にナナトの足に当たるだけでなんの妨害にもならない。
近づいてくるナナト。その左足のズボンの裾から白いものが見え隠れする。
包帯だ。包帯……?
「え……ヨゾラ先輩……? 」
近づくナナトがピタリと足を止めた。
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