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第5話
「お願い、コレを外して!! もう帰る!! 」
ジャラジャラと鎖が音を立てるが、二人とも動く様子はない。
「……まだ分かってないみたいだから、だめ」
ナナトがため息をついてから、ゆっくりと言い聞かせるように話す。
「そんな事言うなんて、まだ俺のことわかってない証拠だよ。俺が何もしなくていいって言ったら何もしなくていいの」
怒るというよりも、理解してくれなくて悲しいのだと表情が雄弁に語る。
「ケイコさんの帰るところはここだよ? ここ以外にないの、わかった? 」
静かに、だが確かな圧を感じて、頷くことしかできなかった。
それから三日。すでに火曜日の夜になっていた。
二人はこの三日間、土曜日の夜のことなどなかったかのように接してきた。
ナナトは優しく、ヨゾラ先輩はそれを見て微笑む。普通だったら優しい恋人とそれを微笑ましく見守る兄といった構図だろう。
だが、足枷が普通ではないことを主張する。
これから先、ずっとこれが続くと思うと頭がおかしくなりそうだ。
「はい、あーんして」
今も自分で食べられるのに、ナナトは幼い子どもに食べさせるように食事の介助をしてくる。自分のペースで食べられないことがこんなに苦痛だとは思わなかった。
「どうしたの? 食欲ない? ヨゾラにお粥作ってもらおうか」
口を開けないと心配そうな顔で覗き込んでくる。
土曜日の、ナナトが怒ったときの様子があまりに怖くて、否定したくてもできなくなっていた。
黙って口を開ける。
「いい子。ちゃんと食べてね」
頭を撫でられて、スプーンで掬った野菜スープを口に入れられる。
「ナナト、あなたの分は冷蔵庫に入れておきますよ。ケイコさんの食事が終わったら食べてくださいね」
「はーい、ありがと」
ナナトは私が完食するまで食事の介助を楽しそうに続ける。
「ケイコさん、あんまり喋らなくなったね」
ぽつりとナナトが呟く。不穏な気配に体がこわばる。
「俺はたくさん喋る子が好きなんだけど。黙ってたら何考えてるのかわかんないじゃん」
「……えっと……ごめんなさい……」
怒られているような気がして、すぐに謝罪を口にする。
こうやって彼は度々自分の好ましいように私を矯正する。ありのままの私ではなく、自分の『好き』を詰め込んだ、自分にとって好ましい私を大事にする。
―あれ?昨日は『ごちゃごちゃ言う子は嫌い』って言ってなかった?
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